判旨
法令で制限された物資の譲受けにおいて、適法な手続を経ていない事実を認識している以上、相手方が正当な配給権限を有すると誤信したとしても故意は阻却されない。
問題の所在(論点)
法令により特定の資格や手続が要求される物資の譲受けにおいて、自己が当該手続を経ていないことを認識している一方で、取引自体は正当なものであると誤信した場合に、刑法38条1項の「罪を犯す意思」(故意)が認められるか。
規範
犯罪の成立に必要な犯意(故意)が認められるためには、客観的構成要件に該当する事実を認識していることを要する。法令により譲受方法が限定されている場合において、自己が当該法令上の正規の手続(割当公文書の引換えや許可等)を経ていないことを認識しつつ譲受けを行ったのであれば、仮に相手方の提示した書類等により当該取引が正当なものであると誤信したとしても、構成要件的事実の認識に欠けるところはなく、故意は阻却されない。
重要事実
被告人は、法令により割当公文書との引換えや主務官庁の許可がある場合にのみ認められる揮発油の譲受けについて、これら正規の手続を経ることなくAから譲り受けた。被告人は、Aから割当切符を提示されたため、同人による配給は正当なものであると信じていたと主張した。
あてはめ
本件において、被告人は自己に対する割当公文書との引換えや主務官庁の許可といった法令上の適法な譲受要件を充足していない。被告人がこれらの不充足を認識した上で譲受けに及んでいる以上、客観的構成要件に該当する事実(違法な譲受け)の認識は存在するといえる。たとえAから割当切符を提示され、その配給が正当であると誤信したとしても、それは構成要件的事実の認識を左右するものではなく、犯意を欠くとはいえないと評価される。
結論
被告人に本件犯罪の犯意が認められ、有罪とした原判決は正当である。
事件番号: 昭和26(あ)4443 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の許可を得た適法な行為であると誤信して油類を譲渡した場合であっても、証拠上その誤信に相当な理由が認められない限り、故意が阻却されることはなく犯罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は油類を譲渡したが、これが当局から「前渡」またはそれに類するものとして許可された適法な譲渡であると信じていたと…
実務上の射程
行政法規の違反を伴う刑事罰において、構成要件の核心となる手続の不備を認識していれば、その他の動機や背景事情に関する誤信があっても故意を認める実務上の判断基準を示している。行政刑法の故意の論点(事実の錯誤と法の錯誤の区別等)において、客観的構成要件該当事実の認識の範囲を確定する際に引用し得る。
事件番号: 昭和26(れ)1508 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
原審が、被告人等は判示目的物件のポルトランドセメントたることを認識しながら、これを買受けたものであることを認定し、従つて所論被告人等の弁解を採用しなかつたことは、原判文を通読すれば容易に了解し得るところである。そして原審の該事実認定は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認することができる。されば論旨第一点は事実審たる原審の…
事件番号: 昭和26(れ)159 / 裁判年月日: 昭和26年4月26日 / 結論: 棄却
所論は上告適法の理由とは認められない。ことに相被告人より上告趣意書が提出されますればこれを有利に援用するとの上申書はその内容が未必的で不明確でこれに対し当審で判断を与えることができないから、適法な上告理由に当らないこと明らかであつて、援用できない。
事件番号: 昭和27(あ)1120 / 裁判年月日: 昭和28年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車揮発油の譲渡先および譲渡場所の変更を伴う訴因変更について、公訴事実の同一性の範囲内にあるとして、その適法性を認めた。 第1 事案の概要:被告人が自動車揮発油を譲渡した事案において、第一審において、当該揮発油の「譲渡先」および「譲渡場所」をそれぞれ変更する訴因変更の手続きが行われた。原判決はこ…
事件番号: 昭和26(れ)1742 / 裁判年月日: 昭和27年12月18日 / 結論: 棄却
いわゆる進駐軍用物資の揮発油であつても、石油製品配給規則による統制の対象となるものと解すべきである。