判旨
行政庁の許可を得た適法な行為であると誤信して油類を譲渡した場合であっても、証拠上その誤信に相当な理由が認められない限り、故意が阻却されることはなく犯罪が成立する。
問題の所在(論点)
行政上の取締法規に違反する行為において、当局の許可があるものと誤信して行った行為について、故意が阻却されるか。すなわち、違法性の錯誤(ないし事実の錯誤)が故意に及ぼす影響が問題となる。
規範
行為者が自己の行為を適法なものと誤信した場合であっても、その誤信が客観的な証拠に照らして合理的根拠を欠き、犯罪事実の認識を否定できないときは、故意を阻却しない。
重要事実
被告人は油類を譲渡したが、これが当局から「前渡」またはそれに類するものとして許可された適法な譲渡であると信じていたと主張した。しかし、第一審が掲げた証拠、特に共犯者または関係者と思われるAの供述調書等の証拠を総合すると、被告人の主張するような誤信の事実は認められず、犯罪事実を認定するに足りる証拠が存在した。
あてはめ
被告人は許可があるものと信じていたと主張するが、記録上の証拠、特にAの供述等に照らせば、そのような誤信があったとは到底認められない。したがって、適法であると信じたという前提自体が事実として成立せず、犯罪事実の認識を欠くものとはいえない。原判決が証拠に基づき犯罪事実を認定したことに誤りはない。
結論
被告人の誤信の主張は採用できず、本件油類の譲渡行為について犯罪が成立する。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
行政上の許可の有無が問題となる事案において、単なる主観的な誤信の主張だけでは不十分であり、証拠に基づき「誤信したことについて相当な理由」があるか、あるいは「犯罪事実の認識自体を欠く」といえるかが厳格に判断される。答案上は、故意(38条1項)の存否において、事実の錯誤と違法性の錯誤の区別を意識しつつ、本判決のように証拠による認定の段階で排斥する論理として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和29年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令で制限された物資の譲受けにおいて、適法な手続を経ていない事実を認識している以上、相手方が正当な配給権限を有すると誤信したとしても故意は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は、法令により割当公文書との引換えや主務官庁の許可がある場合にのみ認められる揮発油の譲受けについて、これら正規の手続を経…
事件番号: 昭和25(れ)1435 / 裁判年月日: 昭和26年3月13日 / 結論: 棄却
被告人等が判事搾油をしても罪とならないと誤信したのは、所論「法人の事業として搾油をなすことを登記すれば罪とならない、何となれば右法人は明治三五年三月一〇日時の商工大臣の許可を得て製油性肥料工業等の事業をやつてよいことになつており、昭和一七年一月一七日にも其の手続がしてあるからだ」ということを、Aから告げられた為めである…
事件番号: 昭和26(れ)159 / 裁判年月日: 昭和26年4月26日 / 結論: 棄却
所論は上告適法の理由とは認められない。ことに相被告人より上告趣意書が提出されますればこれを有利に援用するとの上申書はその内容が未必的で不明確でこれに対し当審で判断を与えることができないから、適法な上告理由に当らないこと明らかであつて、援用できない。
事件番号: 昭和26(れ)1508 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
原審が、被告人等は判示目的物件のポルトランドセメントたることを認識しながら、これを買受けたものであることを認定し、従つて所論被告人等の弁解を採用しなかつたことは、原判文を通読すれば容易に了解し得るところである。そして原審の該事実認定は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認することができる。されば論旨第一点は事実審たる原審の…
事件番号: 昭和27(あ)1120 / 裁判年月日: 昭和28年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車揮発油の譲渡先および譲渡場所の変更を伴う訴因変更について、公訴事実の同一性の範囲内にあるとして、その適法性を認めた。 第1 事案の概要:被告人が自動車揮発油を譲渡した事案において、第一審において、当該揮発油の「譲渡先」および「譲渡場所」をそれぞれ変更する訴因変更の手続きが行われた。原判決はこ…