所論は上告適法の理由とは認められない。ことに相被告人より上告趣意書が提出されますればこれを有利に援用するとの上申書はその内容が未必的で不明確でこれに対し当審で判断を与えることができないから、適法な上告理由に当らないこと明らかであつて、援用できない。
相被告人から上告趣意が提出されたら有利に援用するとの上申と上告理由
旧刑訴法423条,旧刑訴法434条,旧刑訴法409条
判旨
法律の錯誤(違法性の意識の欠如)が責任を阻却するためには、単に違法でないと信じただけでは足りず、正当な理由に基づくことが必要である。また、緊急避難等の責任阻却事由は、事実認定の対象となる以上、適切な主張・立証がない限り裁判所の判断を要しない。
問題の所在(論点)
1. 法律の錯誤(違法性の意識の欠如)が故意または責任を阻却するための要件。2. 原審で主張されていない緊急避難の事由について、判決が判断を示さないことの適法性。
規範
違法性の意識を欠いたとしても、そのことにつき正当な理由がない限り、故意は阻却されない。また、緊急避難等の刑罰減免事由については、原審において主張されない事実に基づき上告審で法律判断の誤りを争うことはできない。
重要事実
被告人らは、本件取引が占領軍総司令部(GHQ)経済科学局からの公的指示に基づくものであり、法定の除外事由に該当する、あるいは違法ではないと信じていたと主張した。また、上告審に至り、当該行為が緊急避難に該当するとの主張を新たに行った。
事件番号: 昭和26(あ)4443 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の許可を得た適法な行為であると誤信して油類を譲渡した場合であっても、証拠上その誤信に相当な理由が認められない限り、故意が阻却されることはなく犯罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は油類を譲渡したが、これが当局から「前渡」またはそれに類するものとして許可された適法な譲渡であると信じていたと…
あてはめ
1. 被告人らが本件取引を適法と信じた点について、原判決はGHQからの公的指示等の客観的事実を認めず、正当な理由があるとはいえないと判断しており、この事実認定に基づく判断は正当である。2. 緊急避難の主張は、原審において一切なされておらず、裁判所が判断を示さなかったとしても違法とはいえない。
結論
被告人らの行為について違法性の意識の欠如による責任阻却は認められず、また原審で未主張の緊急避難についても考慮の必要はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
違法性の錯誤に関するリーディングケースの一つ。答案上は、刑法38条3項の解釈において「正当な理由」が必要であることを示す際に引用する。また、上訴審の構造上、原審で主張しなかった事実に基づく主張は制限されるという手続的帰結の確認にも資する。
事件番号: 昭和29(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和29年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令で制限された物資の譲受けにおいて、適法な手続を経ていない事実を認識している以上、相手方が正当な配給権限を有すると誤信したとしても故意は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は、法令により割当公文書との引換えや主務官庁の許可がある場合にのみ認められる揮発油の譲受けについて、これら正規の手続を経…
事件番号: 昭和26(れ)595 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認および量刑不当の主張は、刑事訴訟法上の適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人が、原審の認定していない事実(証明書の下附等)を前提として事実誤認を主張するとともに、量刑が不当であるとして上告を申し立てた事案。 第2 問題の所在(論点):事実誤認および量刑不当の主張が、刑事訴…
事件番号: 昭和26(れ)1508 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
原審が、被告人等は判示目的物件のポルトランドセメントたることを認識しながら、これを買受けたものであることを認定し、従つて所論被告人等の弁解を採用しなかつたことは、原判文を通読すれば容易に了解し得るところである。そして原審の該事実認定は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認することができる。されば論旨第一点は事実審たる原審の…
事件番号: 昭和25(れ)1896 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
被告人は本件建築については英国大使館の方で建築許可につき取計らつてくれるものと信じていたのであるから違法の認識を欠き犯意がなかつたと主張するのであるが違法の認識が犯意成立の要件でないことは当裁所の判例の示すところである。(昭和二四年(れ)第二、〇〇六号同二六年一月三〇日第三小法廷判決)