原審が、被告人等は判示目的物件のポルトランドセメントたることを認識しながら、これを買受けたものであることを認定し、従つて所論被告人等の弁解を採用しなかつたことは、原判文を通読すれば容易に了解し得るところである。そして原審の該事実認定は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認することができる。されば論旨第一点は事実審たる原審の裁量に属する事実の認定を非難するに帰着し、また同第二点は原判旨に副わない非難を試みるものに外ならず引用の判例は本件に適切ではない。
目的物の錯誤に関する判例を引用しても原審の事実認定を非難するに過ぎない事例
刑訴法405条,刑法38条
判旨
故意が認められるためには、客体等の事実を認識していることが必要であるが、原審が被告人らにおいて目的物件の性状を認識していたと認定したことは適法である。
問題の所在(論点)
刑法上の故意の成否に関し、被告人が目的物件の性状(ポートランドセメントであること)を認識していたといえるか、またその認定が適法か。
規範
犯罪の成立に必要な主観的要素である故意が認められるためには、行為者が当該犯罪の客観的構成要件に該当する事実(本件では目的物件の性状等)を具体的に認識していることを要する。
重要事実
被告人両名は、目的物件がポートランドセメントであることを認識しながら、これを買い受けたとして起訴された。これに対し被告人側は、当該物件の性状に関する認識を否定する弁解を行い、原審の事実認定を不服として上告した。
事件番号: 昭和26(れ)256 / 裁判年月日: 昭和26年5月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意が認められるためには、客観的事実と完全に一致する認識は不要であり、対象物の性質を概括的に認識していれば足りる。本件では重炭酸曹達であることの認識があれば、局方の適合・不適合にかかわらず故意が肯定される。 第1 事案の概要:被告人らは、ある品物の取引に関与した。当該品物は重炭酸曹達(重曹)の局方…
あてはめ
原審は、被告人らが目的物件がポートランドセメントであることを認識しながら買い受けたという事実を認定し、被告人らの弁解を退けている。この事実認定は、原判決が掲げる証拠に照らして肯認できるものであり、事実審の合理的な裁量の範囲内にあるといえる。したがって、被告人らには客観的事実の認識に基づいた故意が認められる。
結論
被告人らには目的物件の性状に関する認識が認められるため、故意の成立を肯定した原判決は正当であり、本件各上告を棄却する。
実務上の射程
故意の有無を判断する際、客体の性状についての認識が争点となる場合の論証に活用できる。裁判所が証拠に基づき「認識があった」と認定したプロセスを追認する形式の簡潔な判例である。
事件番号: 昭和29(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和29年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令で制限された物資の譲受けにおいて、適法な手続を経ていない事実を認識している以上、相手方が正当な配給権限を有すると誤信したとしても故意は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は、法令により割当公文書との引換えや主務官庁の許可がある場合にのみ認められる揮発油の譲受けについて、これら正規の手続を経…
事件番号: 昭和26(あ)4443 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の許可を得た適法な行為であると誤信して油類を譲渡した場合であっても、証拠上その誤信に相当な理由が認められない限り、故意が阻却されることはなく犯罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は油類を譲渡したが、これが当局から「前渡」またはそれに類するものとして許可された適法な譲渡であると信じていたと…
事件番号: 昭和26(れ)159 / 裁判年月日: 昭和26年4月26日 / 結論: 棄却
所論は上告適法の理由とは認められない。ことに相被告人より上告趣意書が提出されますればこれを有利に援用するとの上申書はその内容が未必的で不明確でこれに対し当審で判断を与えることができないから、適法な上告理由に当らないこと明らかであつて、援用できない。
事件番号: 昭和25(れ)1896 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
被告人は本件建築については英国大使館の方で建築許可につき取計らつてくれるものと信じていたのであるから違法の認識を欠き犯意がなかつたと主張するのであるが違法の認識が犯意成立の要件でないことは当裁所の判例の示すところである。(昭和二四年(れ)第二、〇〇六号同二六年一月三〇日第三小法廷判決)