判旨
故意が認められるためには、客観的事実と完全に一致する認識は不要であり、対象物の性質を概括的に認識していれば足りる。本件では重炭酸曹達であることの認識があれば、局方の適合・不適合にかかわらず故意が肯定される。
問題の所在(論点)
客観的に存在する対象物の品質(局方適合・不適合)と、被告人の認識が完全に一致しない場合であっても、刑法上の故意(38条1項)が認められるか。
規範
故意の内容として、対象物の具体的な品質や規格(日本薬局方への適合性等)までを詳細に認識している必要はなく、対象物の正体(性質)についての概括的な認識があれば、構成要件的故意を認めるに足りる。
重要事実
被告人らは、ある品物の取引に関与した。当該品物は重炭酸曹達(重曹)の局方適合品、または局方不適合品であった。被告人らは、その品物が重炭酸曹達であるという認識を有した上で、本件取引を行っていた。
あてはめ
被告人らは、取引の対象が「重炭酸曹達」であることを認識していた。対象物が客観的に局方適合品であるか不適合品であるかは、重炭酸曹達という同一の物質の範疇における性質の差異に過ぎない。したがって、重曹であるという正体の認識がある以上、その品質の細部に関わらず、本件取引に関する故意が認められると評価される。
結論
被告人らに故意が認められるとした原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
具体的事実の錯誤のうち、同一構成要件内の性質の錯誤に関する事案である。判旨は簡潔だが、法定的符合説の立場から、認識と事実が構成要件の範囲内で合致していれば故意が認められるとする実務上の基本的な考え方を裏付けるものである。
事件番号: 昭和26(れ)1508 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
原審が、被告人等は判示目的物件のポルトランドセメントたることを認識しながら、これを買受けたものであることを認定し、従つて所論被告人等の弁解を採用しなかつたことは、原判文を通読すれば容易に了解し得るところである。そして原審の該事実認定は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認することができる。されば論旨第一点は事実審たる原審の…
事件番号: 昭和26(あ)4443 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の許可を得た適法な行為であると誤信して油類を譲渡した場合であっても、証拠上その誤信に相当な理由が認められない限り、故意が阻却されることはなく犯罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は油類を譲渡したが、これが当局から「前渡」またはそれに類するものとして許可された適法な譲渡であると信じていたと…
事件番号: 昭和26(れ)159 / 裁判年月日: 昭和26年4月26日 / 結論: 棄却
所論は上告適法の理由とは認められない。ことに相被告人より上告趣意書が提出されますればこれを有利に援用するとの上申書はその内容が未必的で不明確でこれに対し当審で判断を与えることができないから、適法な上告理由に当らないこと明らかであつて、援用できない。
事件番号: 昭和26(れ)1173 / 裁判年月日: 昭和26年9月25日 / 結論: 破棄差戻
一 肥料配給規則(昭和二二年農林省令第五六号)第二一条第一項の違反行為が成立するには、(一)同条第一項に列挙された者が、(二)割当公文書の提示なくして肥料を譲り渡し又は譲り受けたことを必要とするのであつて、肥料を売買した者が指定業者でないということを確定しただけで同条違反の行為があつたものと判断した原判決には、審理不盡…
事件番号: 昭和29(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和29年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令で制限された物資の譲受けにおいて、適法な手続を経ていない事実を認識している以上、相手方が正当な配給権限を有すると誤信したとしても故意は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は、法令により割当公文書との引換えや主務官庁の許可がある場合にのみ認められる揮発油の譲受けについて、これら正規の手続を経…