一 肥料配給規則(昭和二二年農林省令第五六号)第二一条第一項の違反行為が成立するには、(一)同条第一項に列挙された者が、(二)割当公文書の提示なくして肥料を譲り渡し又は譲り受けたことを必要とするのであつて、肥料を売買した者が指定業者でないということを確定しただけで同条違反の行為があつたものと判断した原判決には、審理不盡による理由不備の違法があるか法令を不当に適用した違法がある。 二 一個の行為が甲乙二個の罪名に触れるものとして刑法第五四条により重い甲罪の刑をもつて処断した場合において、軽い乙罪につき、右の如き理由不備の違法があるときは、旧刑訴法第四一一条にいわゆる「法令ニ違反シタルコトアリト雖モ判決ニ影響ヲ及ホサザルコト明白ナルトキ」というにあたらない。
一 法令に違反して肥料配給規則第二一条第一項の違反行為の成立を認めた事例 二 一所為数法の関係にある二罪のうち軽い罪に関する違法と上告理由の有無
肥料配給規則(昭和22年農林省令56号)21条1項,肥料配給規則(昭和22年農林省令56号)4条,刑法54条,旧刑訴法411条
判旨
肥料配給規則21条1項違反が成立するためには、被告人が同条に列挙された者に該当すること、及び割当公文書の提示なく取引が行われたことの両事実を認定する必要がある。
問題の所在(論点)
刑罰法規(取締規定)の違反を認定するにあたり、被告人が条文の定める主体に該当すること、及び各構成要件的事実を具備していることを認定せずに処罰することは許されるか。
規範
特定の取締法規(肥料配給規則21条1項)違反が成立するためには、当該規定が定める構成要件を充足する事実が過不足なく認定されなければならない。具体的には、①行為者が条文に列挙された主体(肥料配給公団、指定業者、消費者、農業者)に該当すること、及び②割当公文書の提示という法的要件を欠いた状態で譲渡・譲受が行われたことの、二つの構成要件的事実を認定することを要する。
重要事実
事件番号: 昭和25(あ)1520 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】肥料配給統制規則等に基づき処罰の対象となる行為は、割当公文書の提示なく硫安を譲渡する現実の行為(引渡し)を指し、その前提となる売買契約そのものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、肥料配給統制規則等の規定に反し、割当公文書の提示を受けることなく、硫安を他者に譲渡した。一審判決はこの譲渡行為を処…
被告人は、昭和22年から23年にかけ、営利目的で計9回にわたり、肥料(硫酸アムモニア等)を公定価格を超過する代金で買い受け、これを第三者に転売した。原審は、この行為を物価統制令違反及び臨時物資需給調整法に基づく肥料配給規則違反と認定した。しかし、原審は被告人が肥料配給規則21条に列挙された主体のいずれに該当するかを判断せず、また取引に際して割当公文書の提示がなかったかどうかの事実も明らかにしないまま、同条違反を適用して被告人を処罰した。
あてはめ
肥料配給規則21条は「肥料配給公団、指定業者又は消費者若しくは農業者」を主体として、割当公文書の提示なき取引を禁じている。本件において、原判決は被告人がこれらの主体に該当するか否かを確認しておらず、また構成要件の核心である「割当公文書の提示の有無」についても事実を摘示していない。したがって、犯罪構成要件に該当する事実を十分に確定しないまま有罪とした原判決の論理には、審理不尽による理由不備または法令適用の不当があるといえる。
結論
被告人が法に定める主体に該当すること及び構成要件事実を欠くことを認定せずに有罪とした原判決は違法であり、破棄を免れない。
実務上の射程
行政取締法規の違反を理由とする起訴事実につき、処罰範囲を画定する「主体」の限定や「手続き上の欠缺」といった構成要件を厳格に解釈し、事実認定の不備を指摘する際の論拠となる。特に、被告人の属性によって適用法条が分かれる場合や、法に明示された要件の有無が争点となる事案での認定の在り方を示す。
事件番号: 昭和26(れ)511 / 裁判年月日: 昭和26年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令が改正された場合において、改正前の行為に改正後の規定を適用することは法の遡及適用に当たり原則として許されないが、併合罪の関係にある他の罪の法定刑に従って処断され、刑の量定に影響がない場合には、判決に影響を及ぼすべき著しい法令違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は臨時物資需給調整法違反…
事件番号: 昭和27(あ)5893 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に適用法令の誤りがある場合であっても、適用されるべき正しい罰則が同一であり、その違法が判決の結果に影響を及ぼさないときは、原判決を破棄すべき理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人は昭和24年3月14日に石油製品の配給に関する違反行為を行った。原判決は、この行為に対して石油製品配給規則11…
事件番号: 昭和25(れ)1180 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
所論ゴム製品については、その統制額を指定した物価庁告示が既に廃止せられたことは所論のとおりであるけれども、右告示による統制指定の廃止は、本件のごとくその廃止以前に犯された物価統制令第三条違反の罪に対しては、旧刑訴第三六三所定の「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタトキ」に該らないとすることは、当裁判所判例(昭和二三年(れ)…
事件番号: 昭和26(れ)1092 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法違反を主張する上告趣意であっても、その実質が単なる量刑不当の主張に帰する場合には、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人側が憲法違反を理由として上告を申し立てた事案。しかし、その主張内容を精査したところ、実質的には量刑が重すぎるという不服申し立てにすぎないものであった。 第2…