被告人は本件建築については英国大使館の方で建築許可につき取計らつてくれるものと信じていたのであるから違法の認識を欠き犯意がなかつたと主張するのであるが違法の認識が犯意成立の要件でないことは当裁所の判例の示すところである。(昭和二四年(れ)第二、〇〇六号同二六年一月三〇日第三小法廷判決)
犯意の成立と違法の認識
刑法38条3項
判旨
犯罪の成立において違法の認識は必要ではなく、客観的な構成要件に該当する事実の認識(故意)があれば足りる。
問題の所在(論点)
刑法上の犯意(故意)の成立において、自らの行為が法律に違反しているという認識(違法の認識)が必要か、あるいは事実の認識のみで足りるか。
規範
故意(犯意)の成立には、自己の行為が法に触れるものであるという「違法の認識」は要件ではない。構成要件的該当事実の認識があれば、犯意の成立を認めることができる。
重要事実
被告人は、所轄官署である戦災復興院総裁の許可を受けずに建築行為を行った。被告人は、英国大使館側で建築許可の手続きを取り計らってくれるものと信じていたため、自身の行為が違法であるとは認識していなかったと主張した。
あてはめ
事件番号: 昭和26(れ)159 / 裁判年月日: 昭和26年4月26日 / 結論: 棄却
所論は上告適法の理由とは認められない。ことに相被告人より上告趣意書が提出されますればこれを有利に援用するとの上申書はその内容が未必的で不明確でこれに対し当審で判断を与えることができないから、適法な上告理由に当らないこと明らかであつて、援用できない。
被告人は、本件建築において必要な許可を得ていないという客観的事実に基づき、建築行為を行った。被告人が「大使館が手配してくれる」と信じ、違法性の意識を欠いていたとしても、それは法律の知不知や解釈の問題に過ぎない。判例の立場によれば、違法の認識は犯意成立の要件ではないため、許可がないという客観的状況下で建築を行ったという事実の認識がある以上、故意が否定されることはない。
結論
被告人の行為には犯意が認められ、有罪とした原判決に誤りはない。
実務上の射程
本判決は「違法性の意識の不要説」を明示した初期の重要判例である。現在の通説・実務(制限的故意説)との間には隔たりがあるが、故意の基本原則を論じる際の出発点として、また「法律の不知はこれを許さず」の原則を背景とした判例法理として、答案上は違法性の意識の要否を議論する際の基準となる。
事件番号: 昭和29(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和29年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令で制限された物資の譲受けにおいて、適法な手続を経ていない事実を認識している以上、相手方が正当な配給権限を有すると誤信したとしても故意は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は、法令により割当公文書との引換えや主務官庁の許可がある場合にのみ認められる揮発油の譲受けについて、これら正規の手続を経…
事件番号: 昭和26(れ)1508 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
原審が、被告人等は判示目的物件のポルトランドセメントたることを認識しながら、これを買受けたものであることを認定し、従つて所論被告人等の弁解を採用しなかつたことは、原判文を通読すれば容易に了解し得るところである。そして原審の該事実認定は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認することができる。されば論旨第一点は事実審たる原審の…
事件番号: 昭和26(あ)4443 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の許可を得た適法な行為であると誤信して油類を譲渡した場合であっても、証拠上その誤信に相当な理由が認められない限り、故意が阻却されることはなく犯罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は油類を譲渡したが、これが当局から「前渡」またはそれに類するものとして許可された適法な譲渡であると信じていたと…
事件番号: 昭和25(れ)1435 / 裁判年月日: 昭和26年3月13日 / 結論: 棄却
被告人等が判事搾油をしても罪とならないと誤信したのは、所論「法人の事業として搾油をなすことを登記すれば罪とならない、何となれば右法人は明治三五年三月一〇日時の商工大臣の許可を得て製油性肥料工業等の事業をやつてよいことになつており、昭和一七年一月一七日にも其の手続がしてあるからだ」ということを、Aから告げられた為めである…