判旨
法律の定める範囲内で裁判官の裁量により言い渡された実刑判決は、被告人の病状に悪影響を及ぼすとしても憲法36条の「残虐な刑」には当たらない。病状の有無や程度は、量刑の妥当性ではなく刑の執行の段階において考慮されるべき事項である。
問題の所在(論点)
法律の範囲内で裁判官の裁量により決定された実刑判決について、被告人の健康状態に悪影響を及ぼす可能性がある場合に、憲法36条の「残虐な刑」に該当するか。
規範
憲法36条が禁じる「残虐な刑」とは、不必要な精神的・身体的苦痛を与える刑罰を指す。裁判官が法律所定の範囲内において、その裁量により定めた刑は、たとえ被告人にとって過重であっても、直ちに「残虐な刑」には該当しない。
重要事実
被告人に対し、事実審が実刑判決を言い渡した。これに対し弁護人は、被告人の病状に鑑みれば、刑の執行が病状に悪影響を及ぼすことは明白であり、実刑を言い渡すことは憲法36条が禁じる「残虐な刑」に該当すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、裁判官が法律の範囲内で裁量により言い渡した刑罰は、客観的に見て法の定める枠内に収まるものである。被告人は病状への悪影響を主張するが、刑の重さ自体が不当に過酷な苦痛を強いるものとはいえない。被告人が主張する病状の懸念は、有罪判決の宣告そのものの適憲性を左右するものではなく、刑の執行段階において執行停止(刑訴法480条以下)等により考慮されるべき性質の事項にすぎない。
結論
被告人の病状に悪影響があるとしても、法律の範囲内の裁量で言い渡された実刑判決は憲法36条に違反しない。
実務上の射程
量刑判断の適憲性に関する判断枠組みを示す。病状等の身体的状況は、量刑段階(実刑か否か)の憲法判断ではなく、執行段階の救済措置の問題として切り離して構成すべきであるという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)1607 / 裁判年月日: 昭和29年9月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指し、被告人にとって過重な刑であるというだけではこれに当たらない。 第1 事案の概要:被告人に対し刑が科されたところ、弁護人は当該刑罰が憲法36条の禁止する「残虐な刑罰」に該当し憲法違反であると…