一 本件起訴状に記載するような共犯関係においては、これをもつて直ちに当然両被告人は利害相反するということはできないから、第一審裁判書が公判進行の必要上当面の急に応じ同一弁護人を選任したこと自体をもつて、直ちに公正な弁護権の行使を妨げる違法な処置ということはできない。 二 被告人は第一審相被告人と共謀の上詐欺を行つたという被告事件につき、被告人が弁護士Aを私選弁護人に選任した場合、第一審裁判所が第一回公判期日に、右Aを相被告人の国選弁護人に選任したからといつて、直ちに右裁判所の措置を以て、利外相反する被告人に同一弁護人を選任し、公正な弁護権の行使を妨げた違法な措置であるということはできない。 三 被告人は第一審被告人と共謀の上詐欺を行つたという事件において、被告人は共謀の事実を否認し、相被告人の単独犯行であると主張し、相被告人は、被告人の依頼されるままに機械的に行動したに過ぎないと主張したからといつて、弁護人Aの相被告人のための弁護権の行使につき被告人において、異議を述べる等特段の措置を取らなかつた以上、被告人が上告理由においてはじめてその主張をなして争うことは許されないものといわなければならない。
一 被告人甲の私選弁護人を相被告人乙の国選弁護人に選任することと公正な弁護権の行使 ―被告人間の利害相反しない事例― 二 裁判所が被告人の私選弁護人を共犯関係に立つ相被告人の国選弁護人に選任する措置の適否 三 被告人と相被告人が利害相反するに至つたが被告人において弁護人の弁護権の行使につき特別の措置をとらなかつた場合とこの点に関する上告理由の適否
憲法37条3項,刑訴法30条,刑訴法289条,刑訴法405条,刑訴法38条,刑訴規則29条2項,弁護士法25条
判旨
共同被告人間で同一の弁護人が選任された場合でも、共犯関係にあることのみをもって直ちに利害相反が生じるとは限らず、被告人が異議を述べず弁護活動にも不利益がない等の事情があれば、公正な弁護権の行使を妨げる違法はない。
問題の所在(論点)
共同被告人に同一の弁護人が付された場合において、憲法37条3項が保障する弁護権の行使を妨げる違法な「利害相反」にあたるか否かの判断基準。
規範
共同被告人の一人のために、他の被告人の弁護人と同一の弁護人を国選弁護人として選任する場合、両被告人の利害が相反しないよう注意することは望ましい。もっとも、共犯関係にあることのみをもって直ちに当然に利害が相反するとはいえず、公判進行の必要上、同一弁護人を選任すること自体が直ちに公正な弁護権の行使を妨げる違法な処置とはならない。
重要事実
被告人Bは私選弁護人Cを選任したが、第一審裁判所は相被告人Dの国選弁護人として同一のCを選任した。公判進行に伴い両被告人の主張に相違が現れ、書面上は利害相反の萌芽が見られた。しかし、被告人Bは第一審公判終結まで異議を述べず、弁護人を解任する等の措置も取らなかった。また、C弁護士は最終弁論で被告人Bに対して無罪ないし執行猶予を、Dに対しては寛大な判決を求め、Bに有利な弁論を行った。
あてはめ
形式的に主張の相違があっても、被告人が異議を述べる等の回避手段を行使せず、実質的にも弁護人が被告人Bに有利な弁論を展開している場合には、被告人は弁護権の行使に不服がなく、相被告人との間に利害相反はなかったものと解される。客観的に利害相反が生じ得る状況であっても、被告人自らが不利益を認識せず、かつ具体的な弁護活動において不公正な取扱いが認められない以上、弁護権侵害の違法はない。
結論
被告人と相被告人の弁護人が同一であっても、被告人が異議なく受容し、弁論内容も被告人に有利である等の事情の下では、弁護権侵害の違法は認められない。
実務上の射程
共同被告人間の利益相反を理由とする上訴事由(刑訴法379条等)の成否を論じる際に用いる。単なる形式的な主張の対立だけでなく、被告人自身の不服の有無や具体的弁護活動の帰趨まで含めて「実質的」に判断すべきであるとする射程を持つ。ただし、弁護人自身の倫理規定(弁護士法・職務基本規程)上の問題とは別に、刑事手続上の瑕疵としての判断枠組みである点に留意する。
事件番号: 昭和33(あ)2609 / 裁判年月日: 昭和34年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の被告人が同一の弁護人に依頼する「共同弁護」において、弁護人が相被告人の国選弁護人を兼ねたとしても、被告人側が異議を述べず、かつ反対尋問の機会が実質的に確保されている等の事情があれば、被告人の弁護権を侵害したとはいえない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人(清水弁護士)が、同一事件の相被告人(…