恐喝として起訴されたものを脅迫と認定しても、脅迫をしたという基本事実に変更がなく、かつ、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれのないものであるから訴因変更の手続を経る必要はない。
訴因変更を要しない例 ―恐喝の起訴に対し脅迫と認定する場合―
刑法249条,刑法222条,刑訴法312条
判旨
恐喝罪として起訴された事実を脅迫罪と認定する場合、基本事実に変更がなく、かつ被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないときは、訴因変更の手続を経る必要はない。
問題の所在(論点)
恐喝罪として起訴された事実を、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経ずに脅迫罪として認定することは、訴因の同一性を逸脱するか、あるいは被告人の防御権を不当に侵害し違法となるか。
規範
裁判所が訴因変更手続を経ることなく、起訴状記載の罪とは異なる罪を認定し得るかは、①当該認定事実が訴因の記載事実と基本的同一性の範囲内にあるか(基本事実の同一性)、及び②被告人の防御権行使に実質的な不利益を及ぼすおそれがないか、という二点から判断される。
重要事実
被告人は当初、恐喝罪として起訴されていたが、裁判所は審理の結果、恐喝罪ではなく脅迫罪が成立すると認定した。この際、第一審または控訴審において、検察官による訴因変更の手続は行われなかった。弁護人は、訴因変更手続を経ずに異なる罪名で処断したことは訴訟法違反であるとして上告した。
あてはめ
本件において、恐喝から脅迫への変更は、恐喝罪の構成要件要素である「恐喝行為」という基本事実に変更がないものといえる。また、脅迫罪は恐喝罪に含まれる性質の罪であり、恐喝の訴因に対して防御を尽くしている以上、その一部である脅迫のみを認定したとしても、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれはないと解される。
結論
訴因変更の手続を経る必要はない。したがって、訴因変更なしに脅迫罪を認定した原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
恐喝罪と脅迫罪のように、構成要件が重なり合い、かつ縮減認定となる関係にある場合には、訴因変更が不要であるとする典型例である。司法試験においては「審判対象の画定」と「不意打ち防止」の観点から、訴因変更の要否を論ずる際の主要な論拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)2982 / 裁判年月日: 昭和29年4月22日 / 結論: 棄却
所論公訴事実と原審認定の事実とはその基本的事実関係において相違するところなく、単に欺罔方法の一部に差異あるに過ぎないのであるから、たとえ原審が訴因変更の手続を経ることなく、判示事実を認定したからとて、これによつて、実質的に被告人に不当な不意打を加えその防禦権の行使を妨げたものと認めることはできないのであつて原判決には所…
事件番号: 昭和36(あ)102 / 裁判年月日: 昭和37年6月5日 / 結論: 棄却
一 被告人は甲女と同棲中同女を働かせてその周旋料を取得しようと企て肩書住居において同女に対し短刀を示しながら「逃げたら只ではおかんぞ」と申し向けて同女を脅迫し昭和三四年二月二八日頃料理店AことBに対し、同女を同人方女給として雇入方斡旋し、もつて脅迫による職業紹介を行つたものであるとの職業安定法六三条一項該当の公訴事実と…