一 被告人は甲女と同棲中同女を働かせてその周旋料を取得しようと企て肩書住居において同女に対し短刀を示しながら「逃げたら只ではおかんぞ」と申し向けて同女を脅迫し昭和三四年二月二八日頃料理店AことBに対し、同女を同人方女給として雇入方斡旋し、もつて脅迫による職業紹介を行つたものであるとの職業安定法六三条一項該当の公訴事実と被告人は相被告人と共謀の上、法定の除外事由がないのに営利の目的で昭和三四年二月二八日頃右山本に対し右甲女を仲居として雇用するよう斡旋し、もつて有料の職業紹介事業を行つたものであるとの、職業安定法六四条一号三二条一項本文刑法六〇条該当の第一審判決認定事実とは基本的事業関係においては同一であると認められるので、いわゆる公訴事実の同一性には何ら欠くるところはない。 二 本件における事実関係並びに訴訟の経過にかんがみると、前者の罪として起訴された訴因を右脅迫という要件を欠如する後者の罪、しかも起訴にかかる同種の職業犯の一部として認定することは、被告人の防禦に実質的な不利益を与える虞れはなく、いわゆる訴因、罰条の変更手続を要しない場合であると解すべく、第一審裁判所の訴訟手続には所論の如き違法は勿論何ら違法の点は存しない。
訴因、罰条の変更手続を要しないとされた事例―職業安定法第六三条第一項と同法第六四条第一号第三二条第一項本文刑法第六〇条
刑訴法256条,刑訴法312条,職業安定法63条1項,職業安定法64条1号,職業安定法32条,刑法60条
判旨
脅迫による職業紹介(職業安定法63条1項)として起訴された事実を、脅迫の要件を欠く営利目的の有料職業紹介(同法64条1号、32条1項)として訴因変更手続を経ずに認定することは、被告人の防御に実質的な不利益を与えるおそれがない限り許される。
問題の所在(論点)
当初の訴因である「脅迫による職業紹介」から、脅迫の要素を欠くが営利目的を要件とする「有料職業紹介事業」へと、訴因変更手続を経ずに認定を変更することが許されるか。構成要件上の差異が被告人の防御権に及ぼす影響が問題となる。
規範
訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)の要否は、審判対象の画定という観点に加え、被告人の防御権保障の観点から決定される。具体的には、認定事実が訴因と基本的事実関係において同一であり、かつ、構成要件の変更が被告人の防御に実質的な不利益を与えるおそれがない場合には、訴因変更手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定することが可能である。
重要事実
被告人は、同棲中の女性に対し短刀を示して脅迫し、職業紹介を行ったとして、職業安定法63条1項(脅迫等による職業紹介)の罪で起訴された。しかし、第一審裁判所は、他の者との共謀及び営利目的を認めつつ、脅迫の事実は認定せず、同法64条1号、32条1項(無許可の有料職業紹介事業)の罪として処断した。弁護人は、これが判決の脱漏であり、訴訟手続に違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件の両事実は、同一の職業紹介行為を対象としており、基本的事実関係において同一性が認められる。構成要件上、変更後の罪には「営利目的」という新たな要素が加わっているが、元の訴因(63条1項)は不当な手段を用いる職業紹介を厳罰に処する趣旨であり、本件の事実関係及び訴訟の経過に照らせば、脅迫の要件を欠く同種の職業犯の一部として認定することは、被告人の防御に実質的な不利益を与えるおそれはない。したがって、訴因変更手続は不要である。
結論
被告人の防御に実質的な不利益を与えない範囲での認定変更は適法であり、訴因変更手続を経ずに異なる罰条を適用した第一審の判断は正当である。
実務上の射程
重い罪(加重類型)から、その構成要素の一部を欠くが共通の性質を持つ軽い罪へ認定を落とす場合に、訴因変更なしで可能かという「縮小認定」の論理の一類型として活用できる。特に、構成要件に新たな要素(本件では営利目的)が加わる場合であっても、それが実質的な防御の妨げにならないという具体的状況があれば、変更手続不要とする根拠となる。
事件番号: 昭和28(あ)914 / 裁判年月日: 昭和29年11月9日 / 結論: 棄却
恐喝として起訴されたものを脅迫と認定しても、脅迫をしたという基本事実に変更がなく、かつ、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれのないものであるから訴因変更の手続を経る必要はない。
事件番号: 昭和28(あ)1601 / 裁判年月日: 昭和28年10月15日 / 結論: 棄却
一 第一審では職業安定法六三条二号を適法に適用処罰している。すなわち、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な事務に就かせる目的で、職業紹介……を行つた者」として処罰されたのである。その職業紹介が有料の職業紹介事業を行つたか(同法三二条一項本文)、無料の職業紹介事業を行つたか(同法三三条一項)は本件には関係がない。 二 第一審判…
事件番号: 昭和41(あ)549 / 裁判年月日: 昭和41年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に前科を記載することは、刑罰の加重事由の特定として必要最小限の範囲内であれば、起訴状一本主義(刑訴法256条6項)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が起訴された際、検察官は起訴状に被告人の前科に関する事項を記載した。弁護人は、この記載が裁判官に予断を生じさせるものであり、起訴状一本主義…