判旨
詐欺罪と恐喝罪は排斥関係にあるわけではなく、相手方を畏怖させた場合であっても、欺罔行為によって錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて財物を交付させたといえる場合には詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
相手方を畏怖させるような態様で行われた財物奪取行為について、詐欺罪と恐喝罪のいずれが成立するか。特に、恐喝的態様が混在する場合であっても詐欺罪が成立するかという点が問題となる。
規範
詐欺罪(刑法246条)における「欺いて…交付させた」とは、行為者が被欺罔者に対して虚偽の事実を告知し、それによって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて財物の交付がなされることを要する。他方、恐喝罪(刑法249条)は畏怖に基づく交付を要件とするが、欺罔行為によって相手方を畏怖させ、かつ錯誤に陥らせた場合、両罪の要件を同時に充足し得る。この場合、交付の主要な原因が錯誤にあると認められる限り、詐欺罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人が行った特定の行為(第一審判決別表十四の事実)について、弁護人は、当該行為が相手方を畏怖させて財物を交付させたものであるとして、詐欺罪ではなく恐喝罪に該当する旨を主張した。これに対し、第一審判決および原判決は、証拠に基づき当該事実が詐欺罪の構成要件を充足すると判断して、詐欺罪の成立を認めた。被告人側は、これが事実誤認であり憲法および法令に違反するとして上告した。
あてはめ
本判決は、原判決が挙げた証拠を精査した結果、被告人の行為が詐欺罪の構成要件を充足するという事実認定を維持した。弁護人は、当該事実が恐喝にあたると主張するが、判決文によれば「判示詐欺の事実を認められる」としている。これは、たとえ行為に脅迫的な要素が含まれていたとしても、相手方が被告人の告知した虚偽の内容を真実であると誤信し、その錯誤に基づいて財物を交付したという因果関係が認められる以上、詐欺罪の成立は正当であると評価したものといえる。
結論
被告人の行為は詐欺罪に該当する。恐喝罪との峻別が議論される場面であっても、欺罔による錯誤と交付の因果関係が認められる限り、詐欺罪の成立を是認した原判決に違法はない。
実務上の射程
詐欺罪と恐喝罪の区別において、実務上は「錯誤」と「畏怖」のどちらが交付の主要な原因であるかを重視するが、本判決は両者が重なり合う場合でも、証拠に基づき詐欺罪の成立を認めうることを示している。答案作成上は、欺罔行為によって生じた「錯誤」に基づき交付がなされた事実を丁寧に拾うことで、詐欺罪の構成要件充足性を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)2449 / 裁判年月日: 昭和31年11月20日 / 結論: 棄却
一 祈祷師が、自己の行う祈祷が全然治病の効能なく、良縁、災難の有無、紛失物の行衛を知る効もないことを信じているにかかわらず、いかにもその効があるように申し欺いて祈祷の依頼者から祈祷料等の名義で金員の交付を受けるときは、詐欺罪を構成する。 二 (裁判官垂水克己の補足意見) かように依頼者が効能を期待せず且つ祈祷者において…