第一審の確定した事実によれば、被告人は原判示Aが煙草の密耕作を行つたことを聞知し、これを奇貨とし、同人より金品を喝取しようの企て、Bと共謀の上、Bを刑事に仕立てて、右A方に赴き、同人に対し、原判示の如く申し向け、同人をしてこの儘放置すれば、煙草の密耕作で検挙されるものと畏怖させ、更に、同人に対し、「新聞社への口止料を出せ」と申し向け、若しこれを拒絶するにおいては、検挙に至るものと感得畏怖せしめ、よつて原判示の如く、他人と共謀の上又は単独にて、同人から金品を喝取したというにあり、なる程被告人の施用した手段の中には、虚偽の部分があり原判示Aがその虚偽の事実に欺かれたことは、まさに所論のとおりであるが、その虚偽の部分も同人に畏怖の念を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として原判示金品を被告人等に交付する決意をするに至つたと認められる以上、縦令その施用手段中に虚偽の部分があつても、全体としてそれは詐欺罪をもつて論ずべきではなく、恐喝罪をもつて論ずべきものである
恐喝の手段の中に虚偽の部分がある場合の擬律。―恐喝罪か、詐欺罪か―
刑法249条1項,刑法246条1項
判旨
被告人が欺罔行為を交えて相手方を畏怖させ、金品を交付させた場合、虚偽の事実が畏怖の念を生じさせる材料となり、その畏怖の結果として交付の決意がなされたのであれば、詐欺罪ではなく恐喝罪が成立する。
問題の所在(論点)
金品を喝取する手段として虚偽の事実を告げ、相手方がその虚偽に欺かれるとともに畏怖して財物を交付した場合に、恐喝罪と詐欺罪のいずれが成立するか。恐喝罪における「恐喝」の意義が問題となる。
規範
手段の中に虚偽の部分があり、被害者がその虚偽の事実に欺かれたとしても、その虚偽の部分が被害者に畏怖の念を生じさせる一材料となり、その畏怖の結果として金品を交付する決意をするに至ったと認められる場合には、全体として詐欺罪ではなく恐喝罪が成立する。
重要事実
被告人は、Aが煙草を密耕作したことを知り、共犯者Bを刑事に仕立ててA方を訪問させた。BはAに対し、このまま放置すれば検挙されると申し向けて畏怖させ、さらに「新聞社への口止料を出せ」と要求した。Aは、拒絶すれば検挙されると信じて畏怖し、金品を交付した。被告人の用いた手段には「共犯者が刑事である」「新聞社への口止料が必要である」という虚偽が含まれていた。
あてはめ
被告人らが刑事を装い、検挙や新聞への掲載をちらつかせた行為には虚偽が含まれている。しかし、この虚偽はAが「検挙される」という恐怖心を抱くための材料となっており、現にAは検挙を免れるために畏怖して交付を決意している。したがって、虚偽の事実によって欺かれた側面はあるものの、交付の直接的動機は畏怖にあるといえるため、恐喝罪の構成要件を充足する。
結論
被告人の行為は全体として恐喝罪を構成する。
実務上の射程
欺罔と畏怖が併存する事案(いわゆる「詐欺的恐喝」)において、いずれの罪が成立するかを区別する基準を示す。実務上は、交付の主要な原因が「錯誤」か「畏怖」かで判断するが、本判例は虚偽が含まれていても畏怖が介在していれば恐喝罪が優先することを認めており、恐喝罪の成立範囲を広く認める際の根拠となる。
事件番号: 昭和28(あ)5252 / 裁判年月日: 昭和30年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪と恐喝罪は排斥関係にあるわけではなく、相手方を畏怖させた場合であっても、欺罔行為によって錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて財物を交付させたといえる場合には詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が行った特定の行為(第一審判決別表十四の事実)について、弁護人は、当該行為が相手方を畏怖させて財…