一 恐喝罪において、脅迫の内容をなす害悪は、必ずしもそれ自体違法であることを要しない。 二 他人の犯罪事実を知る者が、これを捜査官憲に申告すること自体はもとより違法でなくても、これをたねにして、犯罪事実を捜査官憲に申告するもののように申し向けてその他人を畏怖させ、口止料として金品を提供させれば、恐喝罪が成立する。
一 恐喝罪と脅迫の内容をなす害悪の性質 二 恐喝罪が成立する一事例
刑法249条
判旨
恐喝罪における脅迫の内容となる害悪の実現は、必ずしもそれ自体が違法であることを要しない。他人の犯罪事実を捜査官憲に申告する行為自体が適法であっても、それを告知して他人を畏怖させ、金品を提供させることは恐喝罪を構成する。
問題の所在(論点)
恐喝罪における「脅迫」において、告知される害悪の内容が客観的には適法な行為(犯罪事実の申告等)である場合であっても、恐喝罪が成立するか。
規範
恐喝罪(刑法249条1項)における脅迫の内容となる害悪は、必ずしもそれ自体が違法であることを要しない。目的(金品等の交付)と手段(害悪の告知)との相関関係において、社会通念上容認される限度を超える場合には、違法な脅迫に該当する。
重要事実
被告人は、他人の犯罪事実を知る立場にあった。被告人は当該事実を捜査官憲に申告する旨を申し向けて、その他人を畏怖させた。そして、犯罪事実の申告をしないこと(いわゆる口止め)を条件として、金品を提供させた。被告人は、申告行為自体は違法ではないため恐喝罪は成立しない旨を主張した。
あてはめ
被告人は、犯罪事実の申告という、それ自体は適法な行為を「たね」にしている。しかし、これを他人を畏怖させる手段として用い、対価として金品を要求する行為は、権利の行使や適法な告発という枠組みを逸脱している。畏怖させて金品を提供させるという目的に照らせば、告知された内容が適法であっても、手段としての脅迫の性質を失うものではないといえる。
結論
他人の犯罪事実を申告することを申し向けて畏怖させ、口止料として金品を提供させた行為には、恐喝罪が成立する。
実務上の射程
権利行使(債権回収等)と恐喝の限界に関する重要判例。告知される行為自体が正当な権利行使(告発や提訴等)であっても、不当な利得を目的としたり、手段として社会通念上の相当性を欠く場合には、恐喝罪が成立することを示す際の規範として有用である。
事件番号: 昭和26(あ)1826 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権の行使等の正当な権利行使の手段として行われた恐喝行為であっても、その手段が社会通念上許容される範囲を超えている場合には、恐喝罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が、被害者に対して何らかの債権等(正当な権利)を有していたことを前提としつつ、その支払を求める手段として恐喝行為に及んだ事案である…
事件番号: 昭和29(あ)2166 / 裁判年月日: 昭和29年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が自己に関する不利な風評を被害者が知っていることに乗じ、金員の提供に応じなければ危害を加える旨を暗示して交付させた行為は、恐喝罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人は、被害者Aが被告人に関する特定の風評(判決文からは具体的な内容は不明)を知っていることを認識していた。被告人は、その状況に乗…