一 他人が窃取した綿糸を運搬して來るところを、被告人が警察官を装うて之を畏怖させその綿糸を交付させた行爲は、恐喝罪をもつて問擬すべきである。被告人の施用した手段の中に虚僞の部分即ち警察官と稱した部分があつても、その部分も相手方に畏怖の念を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至つた場合は詐欺罪ではなく、恐喝罪となるのである。 二 本件において被害者Aの持つていた綿糸は盜品であるから、Aがそれについて正當な權利を有しないことは明らかである。しかし正當な権利を有しない者の所持であつても、その所持は所持として法律上の保護を受けるのであつて、例へば窃盜したものだからそれを強取しても處罰に値しないとはいえないのである。恐喝罪にしても同様であつて、賍物を所持する者に對し恐喝の手段を用いてその賍物を交付させた場合には矢張り恐喝罪となるのである。
一 警察官を装うて他人の所持する盜品を取上げる行爲と恐喝罪 二 他人の所持する盜品に對する恐喝罪の成立
刑法249條,刑法246條
判旨
警察官を装うなど虚偽の手段を交えたとしても、相手方を畏怖させて財物を交付させた場合は、詐欺罪ではなく恐喝罪が成立する。また、窃取した贓物を所持する者に対して恐喝を行い交付させた場合であっても、その所持は保護されるべきであるから、恐喝罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 警察官を装うという「欺罔」的手段を用いながら、相手方を「畏怖」させて財物を交付させた場合に、詐欺罪と恐喝罪のいずれが成立するか。 2. 盗品を所持している者(正当な権利のない者)から、恐喝の手段を用いてその贓物を交付させた場合に、恐喝罪が成立するか。
規範
1. 行為者が虚偽の事実を述べる手段を用いたとしても、それが相手方に畏怖の念を生じさせる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至った場合は、詐欺罪ではなく恐喝罪が成立する。 2. 恐喝罪の客体は、正当な権限に基づかない所持(盗品等の所持)であっても、その所持自体が法律上の保護を受けるため、恐喝罪の対象となる。
重要事実
被告人は共犯者と共謀し、窃盗犯であるAに対し、警察官を装って「警察の者だがこの綿糸は何処から持ってきたか」と尋ねた。Aが「火薬廠から持ち出した」と答えると、被告人は氏名等をメモする振りをした上、「取調べの必要があるから差し出せ」と命じ、応じなければ直ちに警察署へ連行するかのような態度を示した。Aはこれを畏怖し、その場で盗品である綿糸20梱を被告人に交付した。
あてはめ
1. 被告人は警察官と称して虚偽の事実を述べているが、その言動はAに対し、応じなければ警察署へ連行されるという畏怖の念を生じさせるものであった。Aはこの畏怖によって綿糸を交付したのであるから、虚偽の部分は畏怖を生じさせる一材料にすぎず、恐喝罪の構成要件を充足する。 2. 被害者の占有する綿糸が盗品であり、被害者が正当な権利を有していないとしても、その所持は法律上保護されるべき状態にある。したがって、これを強取する場合と同様、恐喝の手段を用いて交付させた行為は恐喝罪を構成する。
結論
被告人には恐喝罪が成立する。
実務上の射程
詐欺的手法と恐喝的手法が併用された場合、最終的な交付の決定打が「畏怖」にあるならば恐喝罪が優先されることを示す。また、恐喝罪・窃盗罪における「他人の財物」には、不法領得された物の占有も含まれるという占有保護の法理を確認する際の実務上の基礎となる。
事件番号: 昭和23(れ)1369 / 裁判年月日: 昭和24年1月11日 / 結論: 棄却
恐喝取財罪の本質は、被恐喝者の畏怖に因る瑕疵ある同意を利用する財物の領得行爲であると解すべきであるから、その領得行爲の形式が被恐喝者において自から財物を提供した場合は勿論、被恐喝者が畏怖して默認し居るに乗じ恐喝者において財物を奪取した場合においても亦本罪の成立を妨ぐるものではないと謂わねばならぬ。それ故本罪の正條たる刑…
事件番号: 昭和24(れ)1449 / 裁判年月日: 昭和25年4月6日 / 結論: 棄却
人を恐喝して財物を交付せしめる場合には恐喝罪が成立する。本件のように公務員がその職務を執行する意思がなく、ただ名をその職務の執行に籍りて、人を恐喝し財物を交付せしめた場合には、たといその被害者の側においては公務員の職務に對し財物を交付する意思があつたときと雖も、當該公務員の犯行は、收賄罪を構成せず恐喝罪を構成するものと…