人を恐喝して財物を交付せしめる場合には恐喝罪が成立する。本件のように公務員がその職務を執行する意思がなく、ただ名をその職務の執行に籍りて、人を恐喝し財物を交付せしめた場合には、たといその被害者の側においては公務員の職務に對し財物を交付する意思があつたときと雖も、當該公務員の犯行は、收賄罪を構成せず恐喝罪を構成するものと見るを相當とする。すなわち被害者の側では公務員たる警察官に自己の犯行を押さえられているので、處罰を怖れて財物の交付をするのであつて全然任意に出でた交付ということはできないから、恐喝罪のみを構成するものである。
公務員がその職務の執行に名を籍りて人を恐喝し財物を交付せしめた行爲の擬律
刑法249條1項
判旨
公務員が職務執行の意思なく、単に職務に名をかりて人を恐喝し財物を交付させた場合、被害者に寛大な取り扱いを求める意図があったとしても、収賄罪ではなく恐喝罪が成立する。
問題の所在(論点)
公務員が職務を背景に財物を喝取した場合において、被害者が「職務上の便宜」を期待して財物を交付したとき、収賄罪と恐喝罪のいずれが成立するか。
規範
公務員による財物の受領が恐喝罪(刑法249条1項)と収賄罪(同法197条等)のいずれに該当するかは、公務員側に職務執行の意思があるか、および被害者の交付の任意性に基づき判断する。職務執行の意思を欠き、職務を口実として畏怖させ財物を交付させた場合は、被害者に公務員の職務に対する交付の意思(贈賄の意図)が併存していても、交付の任意性が否定されるため、恐喝罪のみが成立する。
重要事実
警察官である被告人が、その職務を執行する意思がないにもかかわらず、警察官としての職務に名をかりて被害者Aを恐喝した。被害者Aは、自己の犯行が警察官に発覚していることを知り、処罰を恐れるとともに、職務上の寛大な取り扱いを受けたいという動機から、被告人に対して金員を交付した。
あてはめ
被告人は職務執行の意思を欠いており、単にその職務を口実として被害者を恐喝している。被害者側において「寛大な取り扱いを受けたい」という贈賄的な意図が含まれていたとしても、その実態は警察官による摘発を恐れてなされたものであり、全然任意に出た交付ということはできない。したがって、被告人の行為は職務権限の適正な行使を前提とする収賄罪の枠組みには収まらず、畏怖による財物移転である恐喝罪の構成要件を充足する。
結論
被告人には恐喝罪が成立し、収賄罪は構成しない。被害者の贈賄的意図は恐喝罪の成立を妨げない。
実務上の射程
公務員の職務行為に関連して財物を得た場合の罪数および罪名の区別に関する重要判例である。公務員側に職務執行の意思がある場合は収賄罪(および贈賄罪)の成立が検討されるが、本判例は、公務員側に職務執行の意思が欠如し、かつ脅迫的態様が強い場合には恐喝罪が優先されることを示している。
事件番号: 昭和26(あ)1315 / 裁判年月日: 昭和27年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員による恐喝行為が介在した場合であっても、当該公務員に職務を執行する意思があり、かつ相手方がその職務に関する対価として賄賂を供与したときは、贈賄罪が成立する。公務員が職務執行を装い単に脅迫したに過ぎない場合とは区別される。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、公務員等に対して賄賂を供与したとし…