刑法第六五条にいわゆる身分は、男女の性別、内外人の別、親族の関係、公務員たるの資格のような関係のみに限らず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態を指称するものであつて、刑法二五二条においては、横領罪の目的物に対する犯人の関係が占有という特殊の状態にあることが刑法六五条にいわゆる身分に該るものと云わなければならない。
一 刑法第六五条にいわゆる「身分」の意義 二 横領の目的物を犯人が占有する状態は右にいわゆる「身分」にあたるか
刑法65条,刑法252条,刑法253条
判旨
刑法65条の「身分」とは、一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態を指し、横領罪における「物の占有者」という地位もこれに該当する。また、使途を定めて寄託された金銭を、受託者が委託の本旨に反して擅に処分した場合には横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 横領罪の成立要件である「他人の物の占有者」という地位が、刑法65条の「身分」に該当するか。2. 使途を定めて寄託された金銭を目的外に消費する行為が横領罪を構成するか。
規範
1. 刑法65条にいう「身分」とは、男女の性別、内外国人の別、親族関係、公務員の資格等に限らず、すべて一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態をいう。2. 横領罪(刑法252条)において、目的物に対する「占有」という特殊の状態、すなわち「物の占有者」たる地位は、刑法65条の「身分」にあたる。3. 使途を定めて寄託された金銭について、受託者が委託の本旨に反して処分したときは、横領罪を構成する。
重要事実
被告人らは、使途を特定して寄託された金銭(600円)を受領し、これを占有していた。しかし、被告人らは当該金銭を委託の趣旨に反して、料理代の支払という全く別の用途に充てて処分した。弁護人は、横領罪の占有者の地位は身分ではないこと、および一部の事実は共同被告人の単独犯行であること等を理由に上告した。
あてはめ
1. 刑法65条の身分は広く犯人の人的関係を指すところ、横領罪は「占有者」という特殊の状態にある者のみが犯し得る真正身分犯(または不真正身分犯)としての性質を有する。したがって、本件における被告人らの占有者たる地位は同条の身分にあたる。2. 本件金銭は使途を定めて寄託されたものである以上、受託者はその趣旨に従い保管すべき義務を負う。それにもかかわらず、被告人らが料理代の支払という委託の本旨に反する処分を行ったことは、不法領得の意思の発現といえ、横領罪の構成要件を充足する。
結論
横領罪の占有者の地位は身分にあたり、使途限定の寄託金を別用途に流用した被告人らには横領罪が成立する。
実務上の射程
横領罪における占有者の地位が身分であることを明示した重要判例。非占有者が占有者と共謀して横領を行った場合、刑法65条1項により共犯が成立する際の理論的根拠として答案上活用される。また、金銭の使途限定寄託における横領罪の成否を論じる際にも参照される。
事件番号: 昭和25(れ)1097 / 裁判年月日: 昭和26年1月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭の保管者が、その自由使用を許容されていないにもかかわらず、自己の用途に消費する行為は、業務上横領罪における「横領」に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、本件金員20万円について保管中であったところ、当該金員を「ほしいままに自己の用途に着服」した。原審の認定によれば、当該金員に係る委託関係は…
事件番号: 昭和27(あ)4013 / 裁判年月日: 昭和28年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】非身分者が身分者の業務上横領行為に共犯として加功した場合、身分なき者には刑法65条の適用により刑が科されるが、業務上横領罪の成立自体は免れず、科される刑が単純横領罪の法定刑の範囲内であれば実質的な不利益はない。また、私文書偽造・同行使と業務上横領、有価証券偽造・行使と業務上横領の間には、特段の事情…