判旨
金銭の保管者が、その自由使用を許容されていないにもかかわらず、自己の用途に消費する行為は、業務上横領罪における「横領」に該当する。
問題の所在(論点)
金銭の寄託を受けた者が、その自由な使用を許されていないにもかかわらず、自己の用途に消費した場合に、刑法上の横領罪が成立するか(「横領」の意義と自由使用の可否)。
規範
横領罪における「横領」とは、不法領得の意思、すなわち他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を発現する行為をいう。金銭の委託を受けた場合、受託者にその自由な使用が許されていないときは、これを自己の用途に消費する行為は横領にあたる。
重要事実
被告人は、本件金員20万円について保管中であったところ、当該金員を「ほしいままに自己の用途に着服」した。原審の認定によれば、当該金員に係る委託関係は、被告人に対してその自由使用を許容しない趣旨のものであった。被告人は第一審において、自由使用の許可を得ていなかった旨を自白しており、その自白を補強する証拠(証人の証言等)も存在していた。
あてはめ
本件において、被告人と被害者との間の委託関係は、被告人に金員の自由な使用を許すものではなかった。それにもかかわらず、被告人が自己の用途にこれを用いたことは、委託の任務に背いて、所有者でなければできない処分をなしたものといえる。したがって、被告人の行為は「擅(ほしいまま)に自己の用途に着服横領」したものとして、横領罪の構成要件を充足する。なお、被告人の自由使用を否定する自白には、証人の証言等の補強証拠も認められるため、事実認定上の違法もない。
結論
被告人に自由使用の権限がない以上、保管中の金員を自己の用途に消費する行為は横領罪を構成する。したがって、原判決の判断に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
金銭という代替性の高い物の横領について、目的が特定されている(または自由使用が禁止されている)委託関係がある場合には、消費行為が直ちに横領となることを示した。答案上は、金銭の所有権の帰属(民事上の所有権と刑法上の所有権の区別)に言及した上で、委託の趣旨を検討し、自由使用が認められない場合の「横領」を肯定する論拠として用いる。
事件番号: 昭和27(あ)490 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
委託販売においては、特約ないし特殊の事情がないかぎり、委託品の売買代金をほしいままに着服または費消するときは横領罪を構成する。