論旨は被告人Aは自己の名義ではなく、判示銀行の名義で判示金員を貸付けたのであるから背任罪を以て問擬すべきであるに拘わらず横領罪として処罰した原判決は大審院判例(昭和十年(れ)第五〇二号同年七月三日刑事第三部判決)に反すると主張する。記録に懲するに第一審判決並に第二審判決は何れも被告人Aが銀行名義を以て判示金員を貸付けた事実は認定していない。ただ原判決は銀行の出納係主任が他人と共謀して業務上保管にかかる金員をほしいまゝに他人の営業資金に流用して費消したときは自己の物として不法に領得する意思を実現したものであるからたとえ右の流用が銀行名義を以てする貸付の形式をとつても出納係主任に金員貸付の権限が全くない以上右の行為は業務上横領罪を構成し背任罪に問擬すべきものでないと判示したことは所論の通りである。按ずるに他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物について権限を有しないに拘わらず所有者でなければできないような処分をする意思を以て自己の保管にかかる物を処分すれば横領罪は成立することは当裁判所判例の示すところである。(昭和二三年(れ)第一四一二号同二四年三月八日第三小法廷判決)そのして原判決は右当裁判所判例と同一趣旨であることは判文上明白であるから論旨は理由がない。
銀行の出納係主任が他人と共謀して業務上保管にかかる金品を擅に他人の営業資金に流用費消した行為の擬律と判例違反の主張の適否
刑法247条,刑法252条1項,刑訴法405条3号
判旨
銀行の出納係主任が、貸付権限がないにもかかわらず、銀行名義の貸付形式を装って保管中の金員を他人の営業資金に流用した行為は、業務上横領罪を構成する。委託の任務に背き、権限がないのに所有者でなければできない処分をなす意思で物を処分した以上、横領罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
金員の保管者が、貸付権限がないにもかかわらず、所属組織の名義で貸付の形式を装って金員を流用した場合に、背任罪(刑法247条)ではなく横領罪(刑法252条、253条)が成立するか。すなわち、横領罪と背任罪の区別が問題となる。
規範
横領罪における「不法領得の意思」とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物について権限がないにもかかわらず、所有者でなければできないような処分をする意思をいう。この意思に基づき自己の保管する物を処分したときは、横領罪が成立する。
重要事実
銀行の出納係主任であった被告人Aは、他人と共謀し、銀行の業務上保管していた金員を、他人の営業資金として流用し費消した。この際、流用の形式は銀行名義による貸付という形がとられたが、被告人Aには当該金員を貸し付ける権限は全く存在しなかった。
あてはめ
被告人Aは銀行の金員を保管する占有者であるが、貸付権限を一切有していなかった。それにもかかわらず、銀行名義の貸付形式を用いたことは、外形的には組織の行為を装っているが、実態としては権限なき処分である。これは、本来の所有者(銀行)でなければなし得ない処分を行う意思、すなわち不法領得の意思を客観的に実現した行為といえる。したがって、形式上の名義が銀行のものであっても、本質的には自己の保管物をほしいままに処分したものと解される。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。貸付権限がない以上、銀行名義を冒用したとしても背任罪にとどまらず、横領罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
権限なき者が占有する他人の物を処分した場合、その形式が貸付等の事務処理を装っていても、横領罪が成立することを示す。実務上、越権行為が「事務の誤用(背任)」か「領得(横領)」かを判断する際、処分権限の有無を重要な指標とする判例として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)4331 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
貸付の権限のない公団の出納係が、業務上保管にかかる小切手金員等をほしいままに他人に流用したときは、右流用が貸付の形式をとつても不法領得の意思を実現したものであるから、業務上横領罪を構成する。