判旨
判決書において個々の証拠の取捨選択の理由を逐一説示することは法の要求するところではなく、犯罪事実の認定自体が反対主張への判断を含んでいる。また、憲法37条2項は、裁判所が不要と認めた証人の喚問までを義務付けるものではない。
問題の所在(論点)
1. 判決書において、取り調べた証拠の信否や証拠能力について逐一理由を説示する義務があるか(刑訴法335条等の解釈)。2. 裁判所が不要と判断した証人について、被告人の請求を却下することが憲法37条2項に違反するか。
規範
1. 判決書には犯罪の証明となるべき証拠を示せば足り(刑訴法335条1項)、取り調べた証拠全ての信否や取捨の理由を逐一説示する必要はない。犯罪事実を認定した判決は、当然に犯罪不成立の主張を排斥した判断を含む。 2. 憲法37条2項は、裁判所が証拠調べの必要がないと認めた証人まで喚問し被告人に審問の機会を与えることを要求するものではない。 3. 憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、裁判所の構成等において偏頗のおそれがないことを意味する。
重要事実
被告人は第一審において犯罪不成立を主張したが、判決では証拠の一部のみが掲示され、取り調べた全証拠の信否や取捨の理由が示されなかった。また、原審において被告人が請求した証人尋問が採用されなかった。さらに、第一審の公判調書の一部が書記官補の死亡により作成されなかったが、公判手続の更新後に改めて当該証人の尋問が行われていた。被告人側は、これらの点が憲法11条、13条、37条、刑訴法317条、335条2項等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 判決書における証拠の挙示について:第一審判決が犯罪事実を認定している以上、犯罪不成立の主張に対する判断は示されているといえる。法の要求する証拠の挙示は犯罪の証明に必要な範囲で足り、個々の証拠の取捨理由を説示しないことは違法ではない。 2. 証人尋問について:原審が証人請求を採用しなかったのは、取り調べの必要がないと判断したためであり、裁判所の裁量権の範囲内である。また、公判調書未作成の不備についても、手続更新後に改めて全証人の尋問が行われているため、審判に違法はない。 3. 公平な裁判所について:裁判所の構成等に偏頗のおそれがある事実は記録上認められない。
結論
判決書に全ての証拠の取捨理由を記載しなかったことや、不要な証人請求を却下したことは、いずれも憲法・刑訴法に違反しない。上告棄却。
実務上の射程
実務上、判決書の理由記載の程度を示す先例である。刑訴法335条2項の「主張に対する判断」の程度に関し、積極的な犯罪事実の認定があれば、特段の事情がない限り消極的な主張への判断として十分であるとする実務の運用を支える。また、証拠決定に関する裁判所の広い裁量を改めて確認するものである。
事件番号: 昭和28(あ)5059 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、被告人が申請したすべての証人の取調べを裁判所に義務付けるものではなく、また同条1項の「公平な裁判所」とは、構成等において偏頗のおそれのない裁判所を意味する。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において証人尋問の申請を行ったが、裁判所がそのすべてを取り調べなかったこと、および裁判所…