判旨
裁判所には証拠調べの範囲や限度を決定する広範な裁量権があり、被告人が申請した証人であっても、裁判所が不必要と判断した場合にはそれを取り調べないことは憲法37条2項に反しない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人の申請した証人尋問を「不必要」として却下することは、憲法37条2項(証人喚問権)や37条1項(公平な裁判所の裁判を受ける権利)、31条(適正手続き)に違反するか。
規範
証拠調べの範囲及び限度は事実審裁判所の裁量に属する。憲法37条2項が定める被告人の証人喚問権は、裁判所に対し、被告人側が申請した証人のうち不必要と認められるものまで悉く取り調べることを義務付ける趣旨ではない。
重要事実
被告人側は、原審において証人申請(A等の尋問)を行ったが、原審裁判所はこれらを不必要であるとして却下した。また、被告人の司法警察官に対する自白や、共同被告人であったAの供述等が証拠として採用され、有罪判決が下された。被告人側は、申請した証人の尋問が行われなかったことや、共同被告人の供述を証拠としたことが憲法31条、37条に違反するとして上告した。
あてはめ
まず、証拠調べの採否は裁判所の裁量事項である。本件において原審が証人申請を却下したことは、審理の経過に照らして合理的な裁量の範囲内(不必要と認めるに足りる事情がある)と認められる。したがって、被告人側の権利を侵害する違法はない。また、共同被告人の供述については、被告人側から証人尋問の請求がなされておらず、かつ共同被告人の供述を相互に補強証拠とすることは憲法上許容されるため、証拠採用に違憲性は認められない。
結論
裁判所が不必要な証人の採用を拒否することは憲法37条2項等に違反せず、原審の判断に裁量権の逸脱・濫用は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法297条に基づく証拠決定の裁量を肯定するリーディングケース。答案では、証人尋問の請求却下が違法となるか検討する際、本判例を根拠に「裁判所は不必要な証人まで尋問する義務はない」としつつ、個別事情から「不必要」との判断が裁量を逸脱していないかを論じる際の準拠枠組みとなる。
事件番号: 昭和27(あ)6121 / 裁判年月日: 昭和29年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項の「公平な裁判所」とは偏頗・不公平のおそれのない組織・構成を指し、同条2項は不必要な証人の尋問を義務付けるものではないため、証拠申請の却下は直ちに憲法違反とならない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、事実審において証人の取調べを申請したが、裁判所は当該証人を不必要と認めてその取り…