判旨
第三者の所有物を没収する場合において、当該第三者に対し告知・弁解・防御の機会を与える規定を欠いたまま没収することは、憲法31条および29条に違反する。したがって、適正手続を欠く第三者所有物の没収を認めた規定に基づく判決は破棄を免れない。
問題の所在(論点)
刑事裁判において、被告人以外の第三者が所有する物件を没収する際、当該第三者に告知や防御の機会を与える規定がないまま没収を命じることが、憲法31条(適正手続)および29条(財産権の保障)に違反するか。
規範
憲法31条の適正手続の保障は、刑罰に準ずる不利益処分である没収にも及ぶ。第三者の所有物を没収するにあたっては、当該所有者に対し、あらかじめ告知、弁解、防御の機会を与えるべき旨を法律に規定する必要がある。これらの機会を保障する規定を欠いたまま第三者の所有物を没収することは、適正な法律の定める手続によらない財産権の侵害として、憲法31条および29条に違反する。
重要事実
被告人らは、漁船E丸を用いて貨物の密輸出(関税法違反)を行った。原審は、密輸出の犯行に供された漁船E丸が、犯行当時被告人らの占有に属していたとして、旧関税法83条1項に基づき没収を言い渡した。しかし、証拠によれば当該漁船は被告人ら以外の第三者Fの所有に属するものであった。当時の関税法等には、没収の対象となる物件の所有者である第三者に対し、告知や弁解の機会を与える規定が存在しなかった。
あてはめ
本件において、没収の対象となった漁船E丸は第三者Fの所有物である。しかし、適用された旧関税法83条1項および関連法令には、所有者であるFに対し、没収の手続において自らの権利を主張するための告知や防御の機会を与えるべき旨の規定が設けられていない。このような手続的保障を欠く規定に基づき、第三者の所有権を一方的に剥奪することは、憲法が要求する適正な手続を履践したものとはいえず、財産権の不当な侵害にあたると評価される。
結論
第三者の所有物について適正手続の規定なく没収を言い渡した原判決は憲法31条・29条に違反し、破棄を免れない。改めて自判し、被告人らのみの所有物については没収を維持するが、第三者所有の漁船については没収をしない。
実務上の射程
刑事手続における第三者没収の違憲性を示した重要判例である。答案上では、適正手続の保障が刑事被告人だけでなく、不利益を受ける第三者にも及ぶことを論じる際の根拠として用いる。本判決を受け、刑事事件被告人以外の者が所有する物の没収手続に関する特例法が制定されたため、実務上の手続はこの特例法に従うことになる。
事件番号: 昭和29(あ)3098 / 裁判年月日: 昭和37年12月12日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】第三者の所有物を没収する場合において、当該第三者に対し告知・弁解・防御の機会を与える規定を設けていない法律に基づき没収を言い渡すことは、憲法31条および29条に違反する。 第1 事案の概要:被告人および共犯者らは、韓国汽船C号を密輸入未遂の犯行に供した。第一審および原審は、当該船舶が犯行当時被告人…