判旨
被告人が心神耗弱の主張にとどまり、心神喪失の主張をしていない場合、裁判所が心神喪失の存否について特段の判断を示さずとも、刑訴法335条2項の判断遺脱には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人が「心神耗弱」の主張のみを行っている場合に、裁判所が「心神喪失」の存否について判断を示さないことが、刑訴法335条2項にいう「法律上刑の減免の理由となる事実の主張」に対する判断遺脱(または392条違反)に当たるか。
規範
刑事訴訟法335条2項は、法律上刑の減免の理由となる事実の主張があった場合、これに対する判断を示さなければならない旨を定めている。もっとも、被告人側が予備的にすら主張していない事項については、裁判所に判断を示す義務はない。
重要事実
被告人は、第一審および控訴審において、心神耗弱の主張は行っていたが、心神喪失の主張は行っていなかった。また、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項および2項に関する事項については、単に情状の一事由として付加的に言及したにとどまっていた。これに対し原判決は、心神喪失や盗犯等防止法の構成要件該当性について特段の法的判断を示さなかった。
あてはめ
記録によれば、弁護人は一審・原審を通じて心神耗弱のみを主張しており、心神喪失については主張自体が認められない。また、盗犯等防止法に関する言及も情状事実としての主張にすぎない。したがって、裁判所が判断すべき「主張」の範囲は心神耗弱等の適法な主張の範囲に限定され、主張されていない心神喪失等について判断を示さなかった原判決の判示に違法はない。
結論
被告人が主張していない心神喪失等の事実について判断を示さなかったとしても、刑訴法335条2項または392条の違反には当たらない。
実務上の射程
実務上、弁護人が責任能力の減免を求める際には、心神喪失と心神耗弱を予備的に組み合わせて主張するのが通例であるが、本判決は、主張がなされていない段階については裁判所の判断義務が及ばないことを確認したものである。
事件番号: 昭和28(あ)587 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において被告人の心神耗弱を特に主張せず、または第一審の判断を非難していない場合には、控訴裁判所がこれについて判断を示さなくても法令違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判の控訴審において、心神耗弱の状態にあったことを特に主張せず、また第一審判決が心神耗弱ではないと判断したこと…