判旨
控訴審において被告人の心神耗弱を特に主張せず、または第一審の判断を非難していない場合には、控訴裁判所がこれについて判断を示さなくても法令違反には当たらない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書において明示的に主張されていない、あるいは第一審の判断を非難する形で指摘されていない事項(心神耗弱の有無等)について、控訴裁判所が判断を示さなかったことが、判断遺脱として違法(あるいは憲法31条違反)となるか。
規範
控訴審は事後審的性格を有するものであるから、控訴趣意書において具体的に主張されていない事項、または第一審判決の判断に対する具体的な非難が含まれていない事項については、特段の事情がない限り、裁判所はこれに対して判断を示す義務を負わない。
重要事実
被告人が刑事裁判の控訴審において、心神耗弱の状態にあったことを特に主張せず、また第一審判決が心神耗弱ではないと判断したことに対しても具体的な不服申し立て(非難)を行わなかった事案である。その後、上告審において、原判決が心神耗弱の点について判断を遺脱したことが憲法31条(適正手続き)等に違反する旨を主張した。
あてはめ
本件において、被告人側の控訴趣意を確認しても、被告人が心神耗弱の状態にあったとの主張や、第一審判決の責任能力に関する判断を非難する主張は認められない。このような状況下では、控訴裁判所が心神耗弱の有無について改めて判断を示す必要はなく、判断を欠いたとしても手続き上の違法はないといえる。したがって、判断遺脱を前提とする憲法違反の主張もその前提を欠くものである。
結論
控訴趣意において主張されていない事項について判断を示さなかった原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法上の控訴審における裁判所の審判範囲と判断義務の限界を示す。実務上、控訴趣意書による問題提起がない事項については、裁判所は職権調査(刑訴法392条)を行うことができるものの、判断を示さなかったからといって当然に判断遺脱の違法を招くものではないことを確認する際に活用できる。
事件番号: 昭和36(あ)1761 / 裁判年月日: 昭和36年11月30日 / 結論: 棄却
弁護人の上告趣意第一点につき記録を調べて見ると原審弁護人は控訴趣意第一点において被告人のAに対する所為は心神耗弱に出たものであることを主張したにかかわらず原判決がこれに対し何等判断を示さなかつたことは違法たるを免れない。しかし、被害者Aに対する供述調書によれば、かかる主張事実を認められないから、右の違法は、原判決を破棄…