弁護人の上告趣意第一点につき記録を調べて見ると原審弁護人は控訴趣意第一点において被告人のAに対する所為は心神耗弱に出たものであることを主張したにかかわらず原判決がこれに対し何等判断を示さなかつたことは違法たるを免れない。しかし、被害者Aに対する供述調書によれば、かかる主張事実を認められないから、右の違法は、原判決を破棄しなければ、著しく正義に反するものとは認められない。
刑訴法第四一一条にあたらない事例―心神耗弱の主張に対する判断遺脱。
刑訴法411条1号,刑訴法335条2項,刑法39条2項
判旨
控訴審判決が、控訴趣意において主張された責任能力の減退(心神耗弱)に関する論点に対して判断を示さなかった場合であっても、記録上の証拠に照らし当該事実が認められないときは、直ちに原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない。
問題の所在(論点)
控訴審が控訴趣意で示された心神耗弱の主張に対し判断を示さなかった場合(判断遺脱)、刑訴法411条に基づき原判決を破棄すべき「著しく正義に反する」事由に該当するか。
規範
控訴審判決において、控訴趣意に含まれる重要な主張(心神耗弱等)に対する判断遺脱という訴訟法違反があっても、当該主張に係る事実が証拠上認められず、判決の結論に影響を及ぼさない場合には、刑訴法411条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
重要事実
被告人が被害者Aに対して行った犯行について、原審弁護人は控訴趣意において被告人の行為が心神耗弱状態でのものであったと主張した。しかし、原判決はこの主張に対して何ら判断を示さずに第一審判決を破棄自判した。これに対し、弁護人が判決に影響を及ぼすべき訴訟法違反があるとして上告した事案である。
事件番号: 昭和25(あ)2493 / 裁判年月日: 昭和26年9月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、被告人の上告趣意が実質的に刑訴法411条の職権破棄事由を主張するにすぎず、適法な上告理由に当たらないとして上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人両名は、憲法違反を主張して上告を提起したが、その具体的な内容は、実質的には原判決に重大な事実誤認や法令違反があるといった刑訴法41…
あてはめ
原判決が被告人の心神耗弱の主張に対して判断を示さなかった点は、訴訟法上の違法である。しかし、記録に含まれる被害者Aに対する供述調書の内容を精査すると、被告人が心神耗弱状態にあったという事実は認められない。したがって、判断遺脱という手続上の瑕疵はあるものの、結論に影響はなく、原判決を維持しても著しく正義に反するとはいえないと評価される。
結論
本件上告を棄却する。原判決の判断遺脱は、破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
実務上の射程
控訴審の判断遺脱が上告理由(刑訴法405条)に直接当たらない場合でも、刑訴法411条の職権破棄事由の検討において、当該主張に係る事実の存否が実質的に判断の分かれ目となることを示している。答案上は、手続違背があっても実体的な結論に妥当性がある場合の破棄制限の論理として活用できる。
事件番号: 昭和60(あ)1496 / 裁判年月日: 平成元年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件各上告を棄却する。 第1 事案の概要:弁護人が、原判決に対し違憲および判例違反を理由として上告を申し立てた事案であるが、その主張内容は実質的にみて、単なる法令違反や事実誤認の主張に留まるものであった。また、引用された判例も本件事案とは事案を異にするものであった。 第2 問題の所在(論点):刑訴…