判旨
金員の交付を目的とする詐欺罪において、代金支払場所から離れた工場等の現場で量目を仮装するなどの欺罔行為を開始した時点であっても、それが支払担当者に対する一連の欺罔行為の端緒となるものであれば、実行の着手が認められる。
問題の所在(論点)
詐欺罪における実行の着手時期、特に、現場での欺罔行為が、物理的・組織的に離れた場所にある支払い担当部署に対する金員交付を目的とする一連のプロセスの一部である場合の着手時期が論点となる。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の実行の着手は、財物交付の判断の基礎となるべき重要な事項について相手方を誤信させる行為を開始した時点をもって認められる。複数の部署や担当者を経由して支払いが行われる場合であっても、最終的な支払い担当者に向けられた一連の欺罔行為の一環として行われる行為であれば、その開始をもって実行の着手と解すべきである。
重要事実
被告人の共犯者Aは、B製鋼所の指定業者であるC物産の代行商人として、スクラップを同製鋼所D工場に納入しようとした。その際、被告人らはD工場の係員を欺いてスクラップの量目を実際より多く仮装した。代金の支払いは、D工場での受領手続後、納入領収書が大阪市にあるE営業所に送付され、同営業所の担当者から支払われる仕組みであった。被告人らがD工場で量目を仮装した段階で、詐欺罪の成否(実行の着手の有無)が問題となった。
あてはめ
被告人らの行為は、D工場の係員を欺くものであったが、それは5通作成される納入領収書のうち1通をE営業所に送付し、同営業所の係員を介して金員を交付させるための不可欠な先行行為である。すなわち、D工場での量目仮装は、最終的な支払い判断を行うE営業所の係員をも欺くことにつながる一連の欺罔行為の開始といえる。したがって、D工場の係員に対して量目仮装を伴う納入行為を行った時点で、詐欺罪の実行の着手が認められると評価される。
結論
被告人らの行為は、製鋼所E営業所に向けられる一連の欺罔行為の実行に着手したものと認められる。
実務上の射程
組織的な事務処理が行われている事案において、現場担当者への欺罔が直接的な財物交付に結びつかなくても、それが後の支払手続を誤らせる一連の流れの一部であれば実行の着手を肯定できるという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…
事件番号: 昭和33(あ)1409 / 裁判年月日: 昭和34年3月12日 / 結論: 棄却
債務者が債権者を欺罔し債務の弁済の猶予を得たときは、刑法第二四六条第二項の詐欺罪が成立する。
事件番号: 昭和27(あ)6146 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯が成立するためには、事前の打合せや意思の連絡が必要であり、これらが認められない場合には単独犯として処理されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は、共犯者が存在する共犯事件であると主張して上告したが、原審(または記録上)では、当該事件において当事者間での事前の打合せ等は認められず、そ…