職権をもつて調査するに被告認に所論前科のあることは前示前科調書(記録一五四丁)によつて推認できるところであり、原審が執行猶予を言い渡したのは、ひつきようこの点に関し審理不尽の違法があるものといわなければならない。
審理不尽の違法を理由に破棄差戻した一事例 ―前科調書と前科の推認―
刑法25条,刑訴法411条1号
判旨
執行猶予の言渡しにおいて、被告人に執行猶予を付すことができない欠格事由となり得る前科が存在する疑いがある場合には、裁判所はこれを十分に審理すべき義務を負い、審理不尽のまま執行猶予を付した判決は違法として破棄を免れない。
問題の所在(論点)
被告人に執行猶予を付すことができない可能性のある前科が、被告人自身の供述や検察官の提出証拠によって顕在化した状況において、裁判所が当該事実を十分に審理せずに執行猶予を言い渡したことが、審理不尽の違法にあたるか。
規範
裁判所が被告人に対し刑の執行猶予を言い渡すに際しては、刑法25条所定の要件を満たすか否かを慎重に判断すべきであり、欠格事由の有無に直結する前科事実に疑いがある場合には、これを十分に審理・解明した上で判断すべき義務を負う。この審理を尽くさずに執行猶予を付した場合には、審理不尽の違法(刑訴法411条1号等)が生じる。
重要事実
第一審(原審)は、被告人の前科を知らないまま執行猶予を付す主文を朗読したが、その直後に被告人自身が現在服役中である旨を申し立てた。その後、検察庁から前科調書が提出され、執行猶予の欠格事由となり得る前科の存在が示唆された。しかし、原審は改めて公判期日を開いたものの、提出された前科を事実として認定・判示することなく、当初の通り執行猶予を付した判決を宣告した。
あてはめ
本件では、判決言い渡し直後の被告人の申立ておよびその後の前科調書の提出により、被告人に執行猶予の欠格事由があることを推認させる具体的な情報が裁判所に提示されていた。にもかかわらず、原審は判文において当該前科を認定・判示することなく執行猶予を付しており、執行猶予の要件充足性について十分な検討を行ったとは認められない。したがって、この点に関する審理は不十分であり、判決に影響を及ぼすべき違法があるといえる。
結論
原判決には審理不尽の違法があるため破棄を免れず、被告人の前科関係を更に審理させるため、本件を原審に差し戻すべきである。
実務上の射程
実務上、執行猶予の適否を判断する前提となる前科の有無は、刑法25条の要件判断において不可欠な事実である。裁判所に職権調査義務があることを示唆するものであり、答案上は、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の看過や、証拠があるにもかかわらず実体的真実の解明を怠った際の「審理不尽」の典型例として引用できる。
事件番号: 昭和29(あ)1207 / 裁判年月日: 昭和32年2月12日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が起訴にかかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして、被告人に対し、無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決は事実を誤認したものとしてこれを破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録および第一審裁判所で取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について、犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、…