判旨
窃盗罪の判示において、盗品が「財物」であることを示すのに必要な品目および数量を記載すれば足り、その評価額を記載する必要はない。また、控訴審が事実確定に影響しない理由で自判する場合、第一審が確定した事実をそのまま引用して法令を適用することができる。
問題の所在(論点)
1. 窃盗罪の有罪判決において、盗品の「価額(評価額)」を判決書に記載する必要があるか。 2. 控訴審が事実認定に影響しない理由(没収の不備等)で破棄自判する場合、第一審が認定した事実をそのまま用いて法令を適用できるか。
規範
1. 窃盗罪(刑法235条)の構成要件的事実の摘示としては、当該目的物が「財物」であることを示すに足りる品目および数量が判示されていれば十分であり、その価額(評価額)を記載することは必要ではない。 2. 控訴審において、事実の確定に影響を及ぼさない事由(没収の理由不備等)によって第一審判決を破棄して自判(刑訴法400条但書)する場合、控訴審は第一審判決が確定した事実に対し、直ちに法令を適用して判決をすることができる。
重要事実
被告人は窃盗罪(刑法235条、60条)に問われ、第一審で有罪判決を受けた。被告人側は量刑不当(執行猶予希望)のみを理由として控訴したが、原審(控訴審)は職権で調査した結果、第一審判決の「没収」の言渡しに理由不備の違法があることを発見した。原審は、犯罪事実自体の認定には誤りがないと判断し、第一審判決を破棄した上で、第一審が認定した事実をそのまま引用し、自ら刑を言い渡す「自判」を行った。被告人側は、第一審判決に盗品の価額の記載がないことや、控訴審の手続違背を理由に上告した。
あてはめ
1. 窃盗罪は「他人の財物」を窃取することを内容とする。第一審判決は、盗品の品目および数量を具体的に摘示しており、これによって「財物」であることが明確に特定されている。したがって、その経済的評価額を併記しなくとも、犯罪構成要件の認定として欠けるところはない。 2. 本件では控訴趣意が量刑不当のみであり、事実誤認の主張はなされていない。原審が破棄の理由としたのは没収に関する理由不備であり、犯罪事実の確定そのものを左右するものではない。このような場合には、改めて証拠調べや事実認定の手続を履践し直す必要はなく、第一審が確定した事実に即して直ちに擬律判断を行うことは適法である。
結論
1. 窃盗罪の判示に財物の価額を記載する必要はない。 2. 事実確定に影響しない事由による破棄自判において、第一審の認定事実を直ちに引用することは正当である。
実務上の射程
窃盗罪における判示事項の程度(価額不要論)を確認する実務上の基本例。また、刑訴法400条但書の「直ちに判決をすることができる」場合の運用として、事実関係に争いがない状況での破棄自判の許容範囲を定めたものとして、刑事訴訟法の答案作成上、判決書の理由記載や控訴審の自判手続の適法性を論じる際に参照される。
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