判旨
第一審判決における証拠の挙示が不十分であっても、事案が比較的簡単で、証拠標目がどの事実に連結するかが概ね明瞭であれば、刑訴法335条1項の法令違反は「著しく正義に反する」ものとはいえず、上告理由にはならない。
問題の所在(論点)
判決書の「証拠の標目」の判示において、個々の事実と証拠の対応関係が詳細に示されていない場合、刑訴法335条1項違反として判決の破棄事由(刑訴法411条1号)となるか。
規範
刑事訴訟法335条1項は「罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない」と規定する。このうち「証拠の標目」の判示に不備がある場合であっても、事案が比較的簡明であり、示された証拠がどの事実に対するものであるか判決文全体から概ね明瞭に判別できるときは、当該違法は刑訴法411条にいう「判決に影響を及ぼすべき法令の違反があって、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認める」べき事由には当たらない。
重要事実
被告人Aら4名が起訴された事案において、第一審判決は有罪を宣告したが、その証拠標目の判示方法について不備があると指摘された。具体的には、個々の罪となるべき事実と各証拠との対応関係を具体的に摘示せず、証拠のみを列記する形式がとられた。被告人側は、これが刑訴法335条1項の定める証拠挙示の要件を欠く訴訟法違反であるとして上告を申し立てた。
あてはめ
本件における第一審判決の証拠標目の判示は、厳密には刑訴法335条1項に違反する不備がある。しかし、本件は事案が比較的簡単であり、判示された証拠標目を見れば、それがどの事実に対応する証拠であるかは大体において明瞭である。そうであれば、証拠挙示の不備が被告人の防御や上訴権の行使を著しく妨げるものとはいえず、原判決の結果を破棄しなければ著しく正義に反するほどの重大な法令違反があるとは認められない。
結論
本件の証拠挙示の不備は、刑訴法411条所定の破棄事由には当たらないため、上告は棄却される。
実務上の射程
判決書の証拠挙示(335条1項)が不十分であっても、実務上は「事実の認定を誤る虞」や「防御の侵害」がない限り、直ちに破棄事由とはならないことを示す。答案上、判決の理由不備(理由不備・理由齟齬)を論じる際に、軽微な形式的不備が「著しく正義に反する」かどうかの限界事例として参照される。
事件番号: 昭和25(あ)773 / 裁判年月日: 昭和26年4月17日 / 結論: 棄却
論旨第二点の刑訴第三三五条第一項の解釈についてはすでに当裁判所の判例として「第一審判決は証拠の標目を一括挙示しており、従つて判文上は証拠と事実との関連性は明らかでないが、記録と照らし合せて見ればどの証拠によつてどの事実が認定されたか極めて明白である」場合は刑訴第三一七条及び第三三五条第一項に反するものではないと判示され…