累犯となる前科の事実は、審理において適法な証拠調をした証拠によりこれを認定することができる限り、判決においては、その事実を判示すれば足り、必らずしもこれを認定する証拠の標目を挙示するを要しない。
累犯となる前科の認定とその証拠摘示の要否。
刑訴法44条1項,刑訴法305条,刑訴法335条1項
判旨
累犯加重の原因となる前科の事実は、刑訴法335条1項の「罪となるべき事実」そのものではないため、適法な証拠調べにより認定できる限り、判決において証拠の標目を挙示する必要はない。
問題の所在(論点)
累犯加重の基礎となる前科の事実は、刑事訴訟法335条1項にいう「罪となるべき事実」に含まれ、判決書においてその認定に用いた「証拠」を掲示する必要があるか。
規範
累犯前科の事実は、実質において犯罪事実に準ずるものであるが、刑訴法335条1項に規定される「罪となるべき事実」そのものには当たらない。したがって、審理において適法な証拠調べが行われ、その証拠に基づいて当該事実を認定できるのであれば、判決書においてその事実を判示(記載)すれば足り、その認定の基礎となった証拠の標目までを明示することは、法律上必ずしも必要ではない。
重要事実
被告人に対し累犯加重を適用した第一審判決において、累犯の原因となる前科の事実は判示されていたが、その事実を認定するための証拠(証拠の標目)が掲げられていなかった。原審は、証拠の標目の挙示がない第一審判決を正当として維持したため、弁護人が判例違反および法令違反を理由に上告した。記録によれば、第一審の第1回公判において、被告人の供述および前科照会書といった前科の事実を認めるに足りる証拠について、適法な証拠調べが実施されていた。
あてはめ
累犯前科は「罪となるべき事実」そのものではないため、同条1項による証拠挙示の義務は直接的には及ばない。本件では、第一審の公判において被告人の供述や前科照会書について適法な証拠調べが完了しており、認定の適法性は担保されている。このように適法に調べられた証拠が存在する以上、判決書に証拠の名称が具体的に記載されていなくとも、前科の事実自体が判示されているのであれば、判決の結論に影響を及ぼすような違法があるとはいえない。したがって、標目を欠く第一審判決を維持した原判決の判断は相当である。
結論
累犯前科の事実については、判決においてその証拠の標目を挙示する必要はない。したがって、これを行わなかった判決を維持した原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
刑事裁判実務における判決書の記載事項に関する射程を持つ。刑訴法335条1項の「罪となるべき事実」の範囲を限定的に解し、量刑上の加重要件(累犯等)については構成要件的事実と同等の厳格な証拠挙示までは求めないことを明確にした。答案上は、判決の理由付けの違法(不備)が争われる場面で、構成要件的事実とそれ以外の事実に分けて記載義務の程度を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4377 / 裁判年月日: 昭和29年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴事実と判決認定事実の基本的事実関係が同一である場合には、訴因変更の手続を経ることなく別個の事実を認定しても、審判の範囲を逸脱した違法があるとはいえない。 第1 事案の概要:被告人が起訴された事実に対し、第一審判決は起訴事実とは異なる事実を認定した。弁護人は、この認定が訴因の範囲を外れており、不…