判旨
判決書の証拠説明において、証拠の種類や供述者を特定でき、どの事実をどの証拠で認定したかが客観的に明らかであるならば、択一的な記載方法であっても刑訴法335条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
判決書における証拠の摘示において、複数の証拠形式を択一的に記載することが、証拠の特定を欠くものとして刑事訴訟法335条1項(罪となるべき事実の判示義務)に違反するか。
規範
判決における証拠の挙示(刑事訴訟法335条1項)は、罪となるべき事実を認定した根拠を明らかにするために行われるものである。したがって、証拠の摘示が、何人の供述等に関する証拠であるかを特定でき、かつどの事実がどの証拠によって認定されたかを客観的に合理的に判別できる程度に特定されているのであれば、その記載方法が一部択一的不確定な形式であっても適法である。
重要事実
第一審判決の証拠説明において、被告人に関する証拠として「……の各供述調書抄本または謄本」と記載されていた。これに対し被告人側は、当該記載が供述調書の抄本または謄本のいずれかのみを指すものであり、証拠の特定を欠き、または択一的不確定な方法による証拠の摘示であるとして、法令違反および判例違反を主張して上告した。
あてはめ
本件の証拠説明における「各供述調書抄本または謄本」との記載は、記録に照らせば供述調書、その抄本、またはその謄本の三者を挙げたものであると認められる。また、記録と照合すれば、それが誰の供述に関する証拠であるか、およびどの事実がどの証拠で認定されたかを明確に判別することが可能である。したがって、本件の記載は証拠の特定を欠いているとはいえず、択一的不確定な方法による証拠の摘示にも当たらないと解される。
結論
本件の証拠説明は証拠の特定を欠くものではなく、刑事訴訟法335条1項に違反しない。
実務上の射程
実務上、判決書の証拠挙示において微細な表記のゆらぎや「または」といった表現が含まれていても、記録全体から証拠が客観的に特定可能であれば適法とされる。司法試験等においては、判決の理由不備(刑訴法378条4号)の文脈で、証拠の特定性の程度を論じる際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1616 / 裁判年月日: 昭和27年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決において数個の犯罪事実につき証拠の標目を一括挙示することは、記録に照らして証拠と認定事実の対応関係が明白であれば、刑訴法335条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が複数の犯罪事実について有罪判決を受けた際、裁判所が判決文において、それぞれの犯罪事実に対応する証拠を個別に分けること…