論旨は原判決が憲法二九条に違反すると主張する。なるほど原審は、「当番の国選弁護人に支給した訴訟費用は被告人の負担とする」との判決をしているけれども、記録上国選弁護人に報酬等を支給した形跡は認められず、被告人に負担させるべき費用は存在しない。従つて判決中右の部分は空文に帰したと同様である。それ故、被告人が現実に訴訟費用を徴収されることを前提として違憲を主張する論旨は、その前提を失い、採用することができない。
被告人が負担すべき訴訟費用がないのに之を被告人に負担させた場合と空文
刑訴法181条,憲法29条
判旨
私選弁護人が正当な理由なく公判期日に出頭せず、召喚等の通知を尽くしてもなお不出頭を繰り返す場合には、被告人の防御権を侵害しない範囲で国選弁護人を選任して審理を進めることができる。
問題の所在(論点)
私選弁護人が公判期日に繰り返し不出頭である場合に、国選弁護人を選任して審理を進め、判決を宣告する措置が、被告人の弁護人依頼権(憲法37条3項)や正当な手続(憲法31条)に違反しないか。
規範
被告人の弁護人依頼権(憲法37条3項)は保障されるべきであるが、私選弁護人が正当な理由なく不出頭を繰り返し、裁判の進行を著しく停滞させる場合には、裁判所は適切に訴訟指揮権を行使し、国選弁護人を選任した上で審理及び判決を宣告することができる。この際、手続の適正(憲法31条)を担保するため、被告人及び私選弁護人に対し適法な召喚・通知がなされていること、及び被告人の実質的な防御に欠けるところがないかを総合的に考慮して判断する。
重要事実
被告人Aの控訴審において、裁判所は第一回から第三回までの公判期日を順次指定し、被告人及び2名の私選弁護人に対し召喚状・通知状を適法に送達した。しかし、被告人らは3回連続で理由なく欠席し、変更申請等も一切行わなかった。そこで裁判所は第三回期日に国選弁護人を選任して弁論(量刑不当の主張)を行わせ、第四回期日においても被告人らが不出頭であったため、国選弁護人立ち会いのもと判決を宣告した。
あてはめ
本件では、裁判所は計4回にわたり期日を通知・召喚しており、手続上の周知は尽くされている。被告人及び私選弁護人は、一度も不出頭の届出や期日変更申請を行うことなく欠席を繰り返しており、公判の放棄に等しい状態であった。また、私選弁護人が提出した控訴趣意書の内容は量刑不当のみであり、国選弁護人がこれに基づき弁論を行っていることから、被告人に実質的な不利益が生じたとは認められない。したがって、裁判所の措置は訴訟の遅延を回避するための適当な公判進行といえる。
結論
被告人及び私選弁護人が適法な通知を受けながら正当な理由なく欠席を繰り返した本件の状況下において、国選弁護人を選任して判決を宣告した手続に憲法違反はない。
実務上の射程
弁護人の不出頭が続く異常事態における裁判所の対応指針となる。実務上は、弁護権の侵害とならないよう、事前の召喚・通知の確実性や、国選弁護人による弁論内容が私選弁護人の意向を反映しているか等の事情が、あてはめの考慮要素となる。
事件番号: 昭和28(あ)2925 / 裁判年月日: 昭和29年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条3項が定める弁護権は、被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所がその機会を保障し妨害しなければ足りる。選任された弁護人の一人が自らの怠慢により公判期日に出頭しない場合、他の弁護人立会いのもとで審理を進めても同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、第1審の第1回公判期日前に弁護士A…
事件番号: 昭和32(あ)1514 / 裁判年月日: 昭和32年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護人が適法な公判期日の通知を受けながら正当な理由なく出頭しない場合、裁判所が国選弁護人を選任して審理を進めることは憲法及び刑事訴訟法上適法である。 第1 事案の概要:被告人の原審弁護人は、適法な公判期日の通知を受けていた。しかし、当該弁護人は、何ら正当な理由がないにもかかわらず、指定された公判期…