記録に依れば、原審は公判期日を定めると共に、被告には召喚状を送達し弁護人島秀一には期日の通知をしているのであつて、右公判期日に弁護士大井亨を被告人の国選弁護人に選任した上公判を開廷し、同弁護人が島弁護人提出の控訴趣意書にもとづいて弁論したのは、被告人、島弁護人のいずれからも右公判期日に出頭し得ない理由を具申して期日の変更または延期の申請が何等なされていないのに、被告人も島弁護人も共に出頭しなかつたことに因るものであることが明らかである。されば、原審において国選弁護人を選任して私選弁護人提出の控訴趣意書にもとづいて弁論したことをとらえて、私選弁護人の弁護権を不能に制限したものということはできない。
私選弁護人不出頭の場合、国選弁護人が私選弁護人提出の控訴趣意書にもとずいて弁論したことは私選弁護人の弁護権の不法制限となるか
刑訴法289条,刑訴法389条,刑訴法391条
判旨
私選弁護人が正当な理由なく公判期日に出頭しない場合において、裁判所が国選弁護人を選任した上で、私選弁護人が提出済みの控訴趣意書に基づき弁論を行わせることは、被告人の弁護を受ける権利を不当に制限するものではない。
問題の所在(論点)
私選弁護人が選任されている事件において、私選弁護人が正当な理由なく欠席した際に、国選弁護人を選任して私選弁護人作成の控訴趣意書に基づき弁論をさせた手続が、憲法上の弁護を受ける権利(または私選弁護人の弁護権)を不当に制限し、違法となるか。
規範
被告人又は弁護人に召喚・通知がなされ、適法に公判期日が定められた場合、特段の事情がない限り、裁判所は公判を開くことができる。私選弁護人が出頭しない場合であっても、国選弁護人を選任し、既に提出されている書面(控訴趣意書等)に基づき弁論を行わせる措置を講じていれば、弁護権の不法な制限には当たらない。
重要事実
控訴審において、原審裁判所は公判期日を定め、被告人に召喚状を送達するとともに、私選弁護人に対しても期日の通知を行った。しかし、被告人及び私選弁護人のいずれからも期日変更や延期の申請がなされないまま、両名とも公判期日に出頭しなかった。そこで裁判所は、別の弁護士を被告人の国選弁護人に選任し、その国選弁護人が、私選弁護人があらかじめ提出していた控訴趣意書に基づいて弁論を行った。
あてはめ
本件では、原審は適法に公判期日を定め、通知等の手続を尽くしている。被告人と私選弁護人は、出頭不能の理由を具体的に具申することなく、何ら期日変更の申請も行わずに欠席したものである。このような状況下で、裁判所が国選弁護人を選任し、私選弁護人が自ら作成・提出した控訴趣意書の内容に沿って弁論を行わせたことは、実質的な弁護の機会を確保するための適切な措置といえる。したがって、私選弁護人の弁護権を不当に奪ったものとは認められない。
結論
原審の手続は適法であり、私選弁護人の弁護権を不当に制限したものではない。
実務上の射程
本判決は、弁護人の出頭がなければ開廷できない事件(必要的弁護事件等)において、私選弁護人が不当に欠席を続ける場合の裁判所の対応指針を示している。実務上は、訴訟遅延を防止しつつ被告人の防御権を形骸化させないよう、提出済みの書面を活かす形での国選弁護人による代行弁論の有効性を肯定したものとして機能する。
事件番号: 昭和30(あ)436 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の防御権や弁護権が適切に行使された事案において、控訴審で証人採用の取消しや弁護人の交代が行われたとしても、それらが訴訟手続の不当な制約に当たらない限り、違憲や違法の上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人は窃盗等の罪に問われ、控訴審において国選弁護人Aが選任された。第1回公判でAは控…