原判決の是認した第一審判決が適法に確定したところは、判示家屋北側道路の通行人にも容易に聴取れる状況の下における判示場所で、「盗人野郎、詐欺野郎、馬鹿野郎」と連呼し、次で、「手前の祖父は詐欺して懲役に行つたではないか」との事実を摘示して呶鳴つたというのであるから、公然、すなわち、不特定、多数の者に見聞し得る状態において、右連呼と祖父に関する事実と相俟つてA自身の社会的評価を受くべき具体的な事項(すなわち性行)を摘示したものというべく、従つて、原判決には所論の法令違反は認められない。註。判示場所とは家屋内土間を指す。
名誉毀損罪の成立する一事例
刑法230条
判旨
公然と事実を摘示して名誉を毀損したというためには、不特定または多数の者が認識し得る状態で、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事項を摘示することを要する。
問題の所在(論点)
刑法230条1項の名誉毀損罪における「公然」の意義、および親族に関する事実の摘示が本人の名誉を毀損する「事実の摘示」に該当するか。
規範
刑法230条1項の「公然」とは、不特定または多数の者が認識(見聞)し得る状態をいい、「事実を摘示」とは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事項を指摘することを指す。なお、摘示される事実は、本人の属性や親族に関する事項であっても、それにより本人の社会的評価(性行等)を低下させるものであれば足りる。
重要事実
被告人は、家屋北側の道路通行人が容易に聴取できる状況下において、「盗人野郎、詐欺野郎、馬鹿野郎」と連呼した。さらに続けて、「手前の祖父は詐欺して懲役に行ったではないか」との事実を大声で怒鳴った。
あてはめ
まず、道路の通行人が容易に聴取できる状況で発言していることから、不特定または多数の者が認識し得る状態にあり、「公然」性の要件を満たす。次に、「盗人」「詐欺」等の罵倒に加え、祖父の犯罪歴という具体的事実を指摘している。本人の祖父に関する事実の指摘であっても、前後の罵倒と相まって、本人の性行等の社会的評価を低下させる具体的な事項を摘示したものと評価できる。
結論
被告人の行為は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損したものとして、名誉毀損罪が成立する。
実務上の射程
「公然」の定義(不特定または多数)を確認する際の基礎判例である。また、摘示される事実が本人自身の行為に限らず、家系や親族に関する事項であっても、それを通じて本人の社会的評価が低下する関係にあれば「事実の摘示」に該当し得る点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和33(あ)2698 / 裁判年月日: 昭和34年5月7日 / 結論: 棄却
一 Xが、確証もないのに、YにおいてX方庭先の燻炭囲の菰に放火したものと思い込み、X方でYの弟Aおよび火事見舞に来た村会議員Bに対し、またY方でその妻C、長女Dおよび近所のE、F、G等に対し、問われるままに、「Yの放火を見た」、「火が燃えていたのでYを捕えることはできなかつた」旨述べたときは(その結果、本件ではYが放火…