一 労働組合の執行委員会において公然他人の名誉を毀損する行為は、たとえ労働者の団結を強化する目的に出たものであつても、憲法第二八条の保障する権利行使に該当しない。 二 右行為につき刑法第三五条の適用はない。 三 多数人の面前において人の名誉を毀損すべき事実を摘示した場合は、その他数人が特定しているときであつても、刑法第二三〇条第一項の罪を構成する。
一 労働組合の執行委員会において公然他人の名誉を毀損する行為と憲法第二八条 二 労働組合の執行委員会において公然他人の名誉を毀損する行為と刑法第三五条 三 刑法第二三〇条第一項にいう公然の意義。
刑法230条1項,刑法35条,憲法28条,労働組合法1条
判旨
労働組合の執行委員会において、特定少数人であっても多数人の面前で他人の名誉を毀損する事実を摘示する行為は、たとえ団結権の強化を目的としていても、憲法28条や労働組合法1条2項による正当業務行為とは認められず、刑法230条1項の名誉毀損罪を構成する。
問題の所在(論点)
1.労働組合の活動に伴う名誉毀損行為が、憲法28条および労働組合法1条2項、刑法35条によって正当化されるか。2.特定の少数の人々が集まる場での事実摘示が、名誉毀損罪の「公然」性の要件(刑法230条1項)を満たすか。
規範
労働組合による行為であっても、公然と他人の名誉を毀損する行為は、労働者の団結を強化する目的があったとしても、憲法28条の保障する権利行使の範囲外であり、労働組合法1条2項および刑法35条の正当業務行為には当たらない。また、事実を摘示した相手方が特定かつ少数であっても、多数人の面前である場合には「公然」の要件を満たし、名誉毀損罪が成立する。
重要事実
被告人は、労働組合の執行委員会において、他の組合員であるAがレジスターとして勤務中に売上金を窃取または横領したことを疑わせる趣旨の発言を、多数の出席者の面前で行った。被告人側は、当該行為が労働組合の団結強化を目的とした正当な活動であり、また発言の相手方が特定の範囲に限られているため「公然」性を欠くと主張した。
あてはめ
本件発言は、その内容が売上金の窃取という具体的な犯罪事実を疑わせるものであり、他人の名誉を著しく毀損するものである。このような行為は、労働組合の目的を考慮しても社会的相当性を逸脱しており、権利の行使とは認められない。また、発言の相手方が特定されていたとしても、多数人の面前で行われた以上は不特定または多数の者が知り得る状態にあるといえ、名誉毀損罪の構成要件を充足する。
結論
被告人の行為には正当業務行為の成立が認められず、名誉毀損罪が成立する。したがって、有罪とした原審の判断は相当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
労働運動の文脈であっても名誉毀損の違法性は阻却されないことを明示した。答案上では、正当業務行為の限界として「目的が正当でも手段が社会的相当性を欠く(名誉毀損等)」場合の処理に用いる。また、「公然」の解釈において「特定多数」が構成要件に該当することを確認する際の根拠となる。
事件番号: 昭和41(あ)2598 / 裁判年月日: 昭和42年10月13日 / 結論: 棄却
国会通信、自民党通信、株主通信等の新聞、パンフレツト等を編集、発行している者が、同紙上に確実な根拠もないのに、A電力株式会社の役員甲、乙がその職務に関し、業者丙から賄賂を収受した旨の記事を掲載し、これを一般多数人に頒布して甲、乙、丙の名誉を毀損した事実について、名誉毀損罪の成立を是認した判決が、憲法第二一条に違反すると…