一 被告人以外の特定人が真犯人である旨の名誉毀損の摘示事実(判文参照)については、本件に現われた資料に照らすと、真実と誤信するのが相当であると認めうる程度の根拠は、存在しない。 二 弁護人が被告人の利益を擁護するためにした行為につき刑法上の違法性の阻却を認めるためには、それが弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮して、法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならないのであり、かつ、その判断にあたつては、その行為が法令上の根拠をもつ職務活動であるかどうか、弁護目的の達成との間にどのような関連性をもつか、弁護を受ける被告人自身がこれを行つた場合に刑法上の違法性の阻却を認めるべきどうかの諸点を考慮に入れるのが相当である。 三 被告人以外の特定人が真犯人であることを広く社会に報道して、世論を喚起し、被告人を無罪とするための証拠の収集につき協力を求め、かつ、最高裁判所の職権発動による原判決の破棄ないしは再審請求の途をひらくため、右の特定人が真犯人である旨の事実摘示をした名誉毀損行為(判文参照)は、弁護人の相当な弁護活動として刑法上の違法性を阻却されるものではない。
一 名誉毀損の摘示事実につき真実と誤信する相当の根拠がないとされた事例 二 弁護人が被告人の利益擁護のためにした行為と刑法上の違法性の阻却 三 弁護人が被告人の利益擁護のためにした名誉毀損行為につき正当な弁護活動として刑法上の違法性が阻却されないとされた事例
刑法35条,刑法230条1項,刑法230条ノ2
判旨
弁護人が刑事被告人の利益擁護のために名誉毀損にあたる事実を公表しても、真実性の証明や相当の理由がなく、かつ訴訟外の救援活動として行われた場合には、正当業務行為(刑法35条)として違法性は阻却されない。
問題の所在(論点)
弁護士が、刑事被告人の冤罪を晴らす目的で、真実性の証明がない他人の犯罪事実を記者会見や出版物を通じて公表する行為は、正当な弁護活動(刑法35条)として違法性が阻却されるか。
規範
刑法35条の正当業務行為として違法性が阻却されるためには、当該行為が法秩序全体の見地から許容されるべきものであることを要する。判断にあたっては、①法令上の根拠の有無、②弁護目的達成との関連性(訴訟手続内か外か)、③刑事被告人本人が行った場合に違法性が阻却されるか、という諸点を総合的に考慮すべきである。
重要事実
弁護士である被告人らは、強盗殺人事件(沼津事件)の弁護にあたり、真犯人は被害者の親族らであるとの確信を抱いた。最高裁への上告趣意補充書提出と併せ、司法記者クラブで記者会見を行い、親族らが真犯人である旨を発表した。さらに、同内容を記載した書籍「告発」を出版・頒布した。しかし、親族らを真犯人と断定する客観的証拠は乏しく、被告人の有罪を覆すに足りる確実な資料も存在しなかった。
あてはめ
①弁護人が名誉毀損罪にあたる事実を公表することを許容する具体的な法令の定めはない。②本件行為は、訴訟手続内で行われたものではなく、世論喚起を目的とした訴訟外の救援活動に属し、弁護目的との関連性は著しく間接的である。③摘示事実に真実性の証明はなく、真実と信じるにつき相当な理由もないため、被告人自身が行っても違法性は阻却されない。したがって、本件は正当な弁護活動の範囲を超えるものといえる。
結論
被告人らの行為は正当な弁護活動には当たらず、名誉毀損罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
弁護人の活動であっても、230条の2の要件を欠く訴訟外の言論活動については、35条による広範な違法性阻却を認めないことを示した。答案上、弁護活動の正当性が問題となる場面では、本判決の3要素(法令根拠・手続内関連性・本人の違法性)を枠組みとして論じるべきである。
事件番号: 昭和31(あ)3359 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 棄却
他人の名誉を毀損する記事を新聞紙に掲載し、これを頒布して他賃の名誉を毀損することは、憲法の保障する言論の自由の範囲内に属するものと認めることができない