誣告被告事件の公判廷において、被告人が弁解として故意に虚偽の事実を陳述して、公然誣告の相手方の名誉を毀損することは、被告人としての防禦権を濫用するものであつて、その行為につき名誉毀損罪が成立する。
被告人の防禦権の行使と名誉毀損罪の成立
旧刑訴法135条,旧刑訴法338条,刑法230条,刑法35条
判旨
被告人が公判廷において、人違いであることに気付きながら真意に反して虚偽の事実を摘示し死者の名誉を毀損した行為は、被告人の防御権の範囲を逸脱した濫用にあたり、名誉毀損罪が成立する。
問題の所在(論点)
被告人が刑事被告人として公判廷で行った供述が、死者に対する名誉毀損罪(刑法230条2項)を構成するか。特に、被告人の防御権(憲法37条)の行使として正当化されるか、あるいは防御権の濫用として処罰の対象となるかが問題となる。
規範
被告人による公判廷での供述であっても、それが真意に反して虚偽の事実を公然と摘示するものであり、かつ、人違いである等の客観的事実に反することを認識しながら行われた場合には、被告人の防御権の範囲を逸脱したものとして、その濫用と認められ、名誉毀損罪(刑法230条、230条の2)の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、白米売買の契約相手がAではないこと(詐欺の告訴をした相手が人違いであったこと)に気付いていた。しかし、被告人は公判廷において、真意に反してAから欺罔行為を受けた旨の主張を展開し、公然と虚偽の事実を摘示して死者であるAの名誉を毀損した。
あてはめ
被告人は、自身の主張が人違いに基づくものであることを自覚しており、真実ではないことを認識しながらあえて虚偽の事実を公判廷で摘示したものである。このような行為は、真実の発見を旨とする刑事裁判の場における正当な防御活動の範囲を明らかに超えるものといえる。したがって、被告人の行為は正当な防御権の行使ではなく、その濫用であると評価される。
結論
被告人の行為は防御権の濫用にあたり、死者に対する名誉毀損罪が成立する。
実務上の射程
公判廷における供述の自由も無制約ではなく、虚偽であることを認識しながら他者の名誉を毀損する言動は防御権の濫用として処罰対象になり得ることを示す。答案上は、正当行為(刑法35条)や防御権の限界を論じる際の判断指標として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3928 / 裁判年月日: 昭和29年5月6日 / 結論: 棄却
原判決の是認した第一審判決が適法に確定したところは、判示家屋北側道路の通行人にも容易に聴取れる状況の下における判示場所で、「盗人野郎、詐欺野郎、馬鹿野郎」と連呼し、次で、「手前の祖父は詐欺して懲役に行つたではないか」との事実を摘示して呶鳴つたというのであるから、公然、すなわち、不特定、多数の者に見聞し得る状態において、…