相手方に対し「この泥棒が」と申向けたにすぎない場合にも、相手方の社会的地位を害するに足るべき具体的事実を述べたものと認め得る場合がある。
刑法第二三〇条第一項にいう「事実ヲ摘示シ人ノ名誉ヲ毀損シタル者」にあたる一事例
刑法230条1項
判旨
名誉毀損罪(刑法230条1項)の成立には、公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させるに足りる具体的事実を述べることが必要である。本件では、被告人の言動が被害者の社会的地位を害するに足りる具体的事実の適示に当たると判断された。
問題の所在(論点)
名誉毀損罪(刑法230条1項)における「事実を摘示し」の意義、および人の社会的評価を害するに足りる具体性の要否が問題となる。
規範
刑法230条1項の名誉毀損罪が成立するためには、公然と事実を摘示し、もって人の社会的評価(外部的名誉)を低下させるに足りる具体的な事実を述べることを要する。
重要事実
被告人が、被害者の名誉を毀損する言動に及んだ事案である。判決文の記述によれば、被告人は被害者の社会的地位を害するに足りる「具体的事実」を述べたと認定されている(具体的な発言内容や状況の詳細は判決文からは不明)。
あてはめ
被告人の行為について検討すると、記録によれば被害者の社会的地位を害するに足りる程度に具体的な事実が述べられている。このような具体的事実の適示は、抽象的な罵倒にとどまらず、人の社会的評価を現実的に低下させる客観的危険性を有するものといえる。したがって、名誉毀損罪の構成要件に該当すると解される。
結論
被告人は被害者の社会的地位を害するに足りる具体的事実を述べたものと認められ、名誉毀損罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、名誉毀損罪の成立要件として「具体的事実の適示」が必要であることを簡潔に示している。答案上は、侮辱罪(事実を摘示しない場合)との区別において、摘示された内容が人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な具体性を備えているかを論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和30(あ)949 / 裁判年月日: 昭和30年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】名誉毀損罪において、専ら公益上の立場から抽象的に公人の態度へ警告を加えるにとどまらず、具体的な事実を摘示して個人の社会的評価を低下させた場合には、同罪が成立し得る。 第1 事案の概要:被告人が、被害者である公人の態度に対し、公益上の立場から抽象的に警告を加えるにとどまらず、その社会的評価を低下させ…