判旨
被告人の自白の真実性を裏付ける補強証拠があれば、自白のみによる有罪認定を禁じた憲法38条3項に違反しない。本件では、自白の内容と整合する押収事実を示す捜索差押調書が補強証拠として認められた。
問題の所在(論点)
自白のほかに客観的な証拠として捜索差押調書が存在する場合、これが憲法38条3項にいう補強証拠に該当し、自白のみによる有罪認定の禁止に触れないかが問題となる。
規範
憲法38条3項および刑事訴訟法319条1項の「補強証拠」とは、被告人の自白が架空のものでなく、その真実性を担保するに足りる証拠を指す。自白と独立した証拠によって自白の真実性が裏付けられる場合には、補強証拠として適格である。
重要事実
被告人は、船員から税関手続を経ていない密輸品(金メッキの鎖バンド合計18本)を無料で譲り受けたとして起訴された。検察官に対する供述調書には、密輸品であるとの認識があった旨の自白が記録されていた。一方で、捜索差押調書には、被告人の居宅から当該鎖バンドが実際に発見・押収された事実が記載されていた。
あてはめ
被告人は「密輸品を譲り受けた」と自白しているところ、司法警察員の捜索差押調書によれば、実際に被告人の居宅から当該物品が発見・押収されている。この事実は、被告人の自白内容が単なる架空の作り話ではなく、実体的な事実に基づいていることを客観的に裏付けるものである。したがって、当該捜索差押調書は自白の真実性を裏付ける補強証拠として十分な価値を有するといえる。
結論
被告人の自白は補強証拠によって裏付けられており、憲法38条3項に違反しないため、有罪認定は適法である。
実務上の射程
自白の補強証拠の程度に関する基本的判例。実務上、自白の真実性を担保する客観的事実(ブツの存在や被害状況など)が示された書面が補強証拠となり得ること、および「補強の範囲」について罪体の一部を裏付ければ足りるとする考え方と親和性が高い。答案では、自白と客観的証拠の整合性を指摘する際に引用する。
事件番号: 昭和31(あ)3825 / 裁判年月日: 昭和34年7月7日 / 結論: 棄却
一 憲法第三八条第三項にいう「本人の自白」には、その判決をした裁判所の公判廷における被告人の自白を含まない。 二 証言並びに犯則物件鑑定表によつて同表記載の物件が関税未納のまま蔵置されていた事実が認められる以上、被告人が関税未納物件を他に庫出して関税を逋脱したという自白の補強証拠として十分である。 三 施設保税倉庫に蔵…
事件番号: 昭和57(あ)568 / 裁判年月日: 昭和57年7月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白について、原判決が認定に用いた他の証拠によって十分な補強がなされている場合には、憲法38条3項(自白のみによる処罰の禁止)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の自白が存在し、それに基づき有罪判決が下された事案において、弁護人が「自白は補強されていない」として、憲法38条3項違反(補…
事件番号: 昭和28(あ)139 / 裁判年月日: 昭和28年7月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項が自白に補強証拠を要求する趣旨は、客観的事実の実在を担保することにあるため、主観的要素である知情(故意)の点については、特段の補強証拠を要しない。 第1 事案の概要:被告人は犯罪事実について自白していたが、弁護人は、被告人の主観的な知情(故意)の点について自白を補強する証拠が欠けてい…