一 憲法第三八条第三項にいう「本人の自白」には、その判決をした裁判所の公判廷における被告人の自白を含まない。 二 証言並びに犯則物件鑑定表によつて同表記載の物件が関税未納のまま蔵置されていた事実が認められる以上、被告人が関税未納物件を他に庫出して関税を逋脱したという自白の補強証拠として十分である。 三 施設保税倉庫に蔵置中の外国商品を占領軍要員以外の者に販売する目的で庫出するときは、関税逋脱罪を構成する。
一 憲法第三八条第三項にいう「本人の自白」 二 自白の補強証拠と認められる事例 三 私設保税倉庫に蔵置中の外国商品を占領軍要員以外の者に販売する目的で庫出する場合と関税逋脱罪の成立
憲法38条3項,刑訴法319条2項,関税法(明治32年法律61号)75条,関税法(明治32年法律61号)31条,関税法(昭和29年法律61号)附則13項,関税法(明治32年法律61号)75条1項,保税倉庫法(明治30年法律15号)6条
判旨
憲法38条3項の「自白」に公判廷での自白は含まれず、また、刑訴法319条2項に基づく補強証拠は、自白の真実性を保障するに足りるものであれば足りる。
問題の所在(論点)
公判廷における自白が憲法38条3項の「自白」に含まれるか。また、関税逋脱の自白に対し、物件の価格鑑定や蔵置事実を示す証拠が補強証拠として十分か(刑訴法319条2項)。
規範
1. 憲法38条3項が規定する「自白」には、裁判上の自白(公判廷における被告人の自白)は含まれない。 2. 刑法訴訟法319条2項における補強証拠は、被告人の自白の真実性を保障するに足りる程度のものであれば足り、犯罪事実の全部を証拠によって直接証明することまでは要しない。
重要事実
被告人は、私設保税倉庫に蔵置されていた外国商品を、関税未納のまま占領軍要員以外の者に販売する目的で庫出し、関税を逋脱したとして起訴された。第一審の公判廷において被告人は犯罪事実を認める自白をしたが、弁護人は補強証拠が不十分であり憲法38条3項及び刑訴法319条2項に違反すると主張して上告した。第一審が証拠としたのは、証人の供述及び大蔵技官作成の犯則物件鑑定表であった。
あてはめ
まず、憲法38条3項の解釈について、判例は公判廷における自白をその対象外としているため、本件自白のみで有罪とすることも憲法上は許容される。次に、刑訴法上の補強証拠について検討するに、証言によれば鑑定表は鑑定台帳に基づき適正に作成され、CIF価格も法令に準拠して算出されている。これは、当時対象物件が関税未納のまま蔵置されていた事実を客観的に裏付けるものである。当該事実は、被告人が「関税未納物件を庫出して関税を逋脱した」という自白内容の核心部分と密接に関連し、その真実性を保障するに十分なものと評価できる。
結論
公判廷での自白は憲法38条3項の制限を受けず、また本件の客観的証拠は自白の真実性を補強するに足りるため、被告人を現行法に基づき有罪とした原判決に違法はない。
実務上の射程
自白の補強証拠の程度に関するリーディングケースの一つ。補強証拠は「自白の真実性を保障するに足りる」という緩やかな基準(実質説的な考慮)で足りることを示しており、特に経済犯罪等において客観的な状況証拠が補強証拠として機能する実務上の枠組みを構成している。
事件番号: 昭和28(あ)1839 / 裁判年月日: 昭和28年10月1日 / 結論: 棄却
憲法三八条三項の「本人の自白」の中には共犯者の自白は含まれていないのであつて、共犯者の供述が補強証拠となり得ることは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月一八日大法廷判決、昭和二三年(れ)一一二号同年七月一四日大法廷判決)。
事件番号: 昭和57(あ)568 / 裁判年月日: 昭和57年7月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白について、原判決が認定に用いた他の証拠によって十分な補強がなされている場合には、憲法38条3項(自白のみによる処罰の禁止)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の自白が存在し、それに基づき有罪判決が下された事案において、弁護人が「自白は補強されていない」として、憲法38条3項違反(補…
事件番号: 昭和28(あ)139 / 裁判年月日: 昭和28年7月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項が自白に補強証拠を要求する趣旨は、客観的事実の実在を担保することにあるため、主観的要素である知情(故意)の点については、特段の補強証拠を要しない。 第1 事案の概要:被告人は犯罪事実について自白していたが、弁護人は、被告人の主観的な知情(故意)の点について自白を補強する証拠が欠けてい…