判旨
被告人が公判外の供述調書について証拠とすることに明示の同意を与え、適法な証拠調べが行われた場合には、反対尋問権を放棄したものと認められ、憲法37条2項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が公判において供述調書の証拠採用に同意した場合に、反対尋問の機会がなかったことを理由として憲法37条2項違反(証人審問権の侵害)を主張できるか(反対尋問権放棄の成否)。
規範
憲法37条2項が保障する証人審問権(反対尋問権)は、被告人の意思により放棄することが可能である。検察官が証拠調べを請求した供述調書等について、被告人及び弁護人が明示の同意を与え、適法に証拠調べが行われた場合には、当該権利は放棄されたものと解するのが相当である。
重要事実
被告人は、公判前の証人AおよびBの各供述調書について、第一審の第8回公判において、弁護人とともに証拠とすることに明示の同意を与えた。これに基づき適法な証拠調べが行われた際も、被告人側から異議等の申し立てはなされず、その後、論告・弁論等の手続を経て結審した。上告審において、被告人側はこれらの調書につき反対尋問の機会が与えられなかったとして憲法違反を主張した。
あてはめ
本件では、被告人および弁護人は、第8回公判という適切な段階で、問題の供述調書を証拠とすることに明示的な同意を与えている。さらに、実際の証拠調べ手続においても異議を述べることなく、最終陳述に至るまで正規の手続が進められている。このような一連の訴訟経過に鑑みれば、被告人側は自らの意思で反対尋問権を行使しないことを選択し、これを放棄したものと評価できる。
結論
被告人側が反対尋問権を放棄したと認められる以上、憲法37条2項違反の主張は前提を欠き、許されない。
実務上の射程
刑事訴訟法326条の証拠同意がある場合に、伝聞証拠の証拠能力が認められるだけでなく、憲法上の証人審問権侵害の主張も封じられるという論理を示す際に用いる。答案上は、同意の効果として「反対尋問権の放棄」というキーワードを明示することが重要である。
事件番号: 昭和38(あ)856 / 裁判年月日: 昭和38年7月10日 / 結論: 棄却
所論は、被告人は所論証人甲外七名の証人尋問につき全然尋問する機会を与えられなかつたのであるから、かかる尋問の機会を与えない証人の尋問調書を証拠として有罪の認定をした第一審判決及びこれをそのまま支持した原判決は、憲法第三七条第二項に違反するものであるというにある。しかし、記録によると、第一審裁判所はその第一回公判期日にお…