所論は、被告人は所論証人甲外七名の証人尋問につき全然尋問する機会を与えられなかつたのであるから、かかる尋問の機会を与えない証人の尋問調書を証拠として有罪の認定をした第一審判決及びこれをそのまま支持した原判決は、憲法第三七条第二項に違反するものであるというにある。しかし、記録によると、第一審裁判所はその第一回公判期日において右証人等を含む合計一六名の証人を昭和三七年一〇月三日静岡県磐田郡a村所在磐田警察署において尋問する旨の決定をしたこと、その決定に基づき同日同警察署において、被告人及び弁護人立会の上、逐次証人の尋問が行なわれたが第八番目の証人乙の尋問の際、第一審裁判官は、同証人が被告人の面前では威迫を受ける虞れがあり証言することができないものと認め被告人に退席を命じたところ、被告人は右乙に対する証人尋問立会権を放棄するとともに、残余の証人甲以下七名に対する証人尋問立会権をも放棄して任意退席したこと、弁護人は証人全員の尋問に立会つたこと、これらの各証人尋問調書については第一審第二回公判期日において適法な証拠調が施行され、これに対し被告人及び弁護人から何らの意義申立もなされなかつたことが明らかである。されば被告人は所論証人甲以下七名の証人について尋問する機会が与えられなかつたということはできないのであるから、所論違憲の主張はその前提を欠く。
公判期日外の証人尋問において被告人に退席を命じたところ、被告人は証人尋問立会権を放棄して任意退席した場合と憲法第三七条第二項。
刑訴法157条,刑訴法158条,刑訴法159条,刑訴法281条,刑訴法281条の2,刑訴法303条,憲法37条2項
判旨
被告人が証人尋問に際して裁判官の退席命令を受けた後、自ら残りの証人に対する立会権を放棄して任意退席した場合、反対尋問の機会を奪ったことにはならず憲法37条2項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が裁判官の退席命令を受けた際、他の証人についても自ら立会権を放棄して任意退席した場合において、当該証人尋問調書を証拠とすることが憲法37条2項にいう「すべての証人を審問する機会」を奪ったものとして違憲となるか。
規範
憲法37条2項が保障する証人尋問権(反対尋問権)は、被告人に証人と対決して尋問する機会を保障するものである。もっとも、被告人が自らの意思によりその機会を放棄し、または正当な理由に基づく退席命令等により尋問の場から離脱した場合には、被告人に尋問の機会が与えられなかったということはできず、同条項に違反するものではない。
重要事実
第一審裁判所は警察署において16名の証人尋問を決定し、被告人及び弁護人の立会いのもと順次尋問が行われた。8番目の証人Bの尋問の際、裁判官はBが被告人の面前では威迫を受け証言できないと認め、被告人に退席を命じた。被告人はBに対する立会権を放棄するとともに、残りの証人Aら7名に対する立会権も自ら放棄して任意に退席した。弁護人は全証人の尋問に立ち会い、後の公判期日で行われたこれら証人尋問調書の証拠調べに対し、被告人・弁護人共に異議を申し立てなかった。
あてはめ
被告人は、証人Bの尋問に際し、証言の自由を確保するための適法な退席命令を受けたものである。また、その際に残余の証人Aら7名についても、自らの意思により立会権を放棄して任意に退席している。さらに、弁護人は全ての証人尋問に立ち会っており、後の証拠調べ手続においても異議が述べられていない。このような状況下では、手続上、被告人に尋問の機会が提供されていたことは明らかであり、被告人自らがその機会を拒絶したものといえる。したがって、被告人に尋問の機会を与えなかったという事実は認められない。
結論
被告人は証人尋問の機会を与えられなかったとはいえない。よって、本件証人尋問調書を証拠として有罪認定したことは憲法37条2項に違反しない。
実務上の射程
被告人が公判廷から退席させられた場合や任意退席した場合の証人尋問の有効性に関する判断基準となる。被告人本人が不在であっても、弁護人が立ち会い、かつ被告人が自ら権利を放棄したと評価できる事情があれば、反対尋問権の侵害にはならないという論理で実務上活用される。
事件番号: 昭和28(あ)238 / 裁判年月日: 昭和29年11月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は被告人側の申請する全証人を取り調べる義務を裁判所に課すものではなく、裁判所は取調の必要性を認めた証人のみを採用できる裁量を有する。 第1 事案の概要:被告人側が証人の取調べを申請したが、原審はその裁量により当該証人申請を却下した。これに対し、被告人側は憲法37条2項に違反するとして…