第一審認定事実に照応する恐喝被害者の司法警察員宛被害顛末書が既に第一審裁判所に提出され、しかも同裁判所はこれを証拠として採用していないときは、たとえ被告人において右被害者が第一審及び原審において所在不明のため同人を証人として尋問請求しなかつた事情があつても、原判決言渡後同人の所在が判明したとの理由でその被害顛末書と異る内容の顛末書と題する書面を新たに上告審に提出しても刑訴法第四一一条第四号第四三五条第六号にあたらない。
刑訴法第四一一条第四号(同 第四三五条第六号)に当らない事例
刑訴法411条4号,刑訴法435条6号
判旨
第一審で尋問を放棄し、かつ控訴審でも請求しなかった証人の供述を裁判所が尋問しなかったことは、裁判所の証拠調べの裁量に属し、憲法37条2項に違反しない。
問題の所在(論点)
当事者が第一審で尋問を放棄し、かつ控訴審でも請求しなかった証人に対し、裁判所が尋問を行わなかったことが憲法37条2項の証人審問権を侵害するか。また、上告審で提出された新証拠が刑訴法411条4号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するか。
規範
証拠調べの範囲や程度は、事実裁判所の合理的な裁量に委ねられている。当事者が尋問を放棄、または請求しなかった証人について、裁判所が職権でこれを尋問しないことは、特段の事情がない限り、憲法37条2項(証人審問権)及び訴訟手続上の違法を構成しない。
重要事実
刑事被告人の事件において、刑訴法321条1項3号に該当する書面の供述者が所在不明であった。第一審において、弁護人及び検察官の双方がこの供述者の尋問を放棄し、さらに原控訴審においてもその尋問の請求を行わなかった。その後、上告審において、当該供述者が第一審の証拠(始末書)と異なる内容の顛末書を提出したことを理由に、憲法違反や事実誤認が主張された。
あてはめ
本件では、問題となっている供述者の尋問について、第一審で弁護人及び検察官が自ら尋問を放棄しており、控訴審でも請求がなされていない。このような状況下で証人尋問を実施しなかったことは、事実裁判所の証拠調べに関する裁量の範囲内であるといえる。また、上告審で新たに提出された顛末書についても、既に第一審で提出され証拠として採用されなかった始末書と対比して、被告人に無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとはいえないと解される。
結論
本件証拠調べの不実施は憲法37条2項に違反せず、また刑訴法411条を適用すべき事由も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
証人審問権の保障は絶対的なものではなく、当事者の手続上の放棄や請求の欠如がある場合には、裁判所の証拠調べの裁量が広く認められる。刑事実務上、証拠調べ請求の適時性を欠いた場合の救済の限界を示す事例として機能する。
事件番号: 昭和27(あ)642 / 裁判年月日: 昭和28年6月23日 / 結論: 棄却
一 刑訴第三二一条二号後段の規定が違憲でないことは大法廷判決(昭和二三年(れ)八三三号昭和二四年五月一八日言渡判決)の趣旨に徴し明らかである。 二 所論検察官の面前における供述を録取した書面を証拠とする場合、該書面が公判期日における供述より信用すべき特別の情況が存するか否かは、結局事実審裁判所の裁量にまかされていること…