判旨
犯意の成立には、自然犯・行政犯を問わず、自己の行為が法に違反するものであるとの認識(違法の意識)を必要としない。
問題の所在(論点)
故意(犯意)の成立要件として、自己の行為が違法であるとの認識(違法の意識)を必要とするか。また、その結論は自然犯と行政犯とで区別されるべきか。
規範
刑法38条3項本文の規定の趣旨に鑑み、故意(犯意)の成立には、行為者が自己の行為が法に違反するものであると認識していることは不要である。この理は、殺人のような自然犯のみならず、行政上の取締目的を持つ行政犯においても同様に妥当する。
重要事実
被告人が何らかの犯罪事実(具体的な罪名は判決文からは不明)に問われ、有罪判決を受けた事案において、弁護人が「違法の認識がなかった以上、犯意が否定されるべきである」として上告を申し立てた。なお、本件の基礎となる具体的な犯行態様等の事実は判決文からは不明である。
あてはめ
最高裁は、先行する大法廷判決(昭和23年7月14日判決等)を引用し、犯意の成立に違法の認識は不要であるという原則を再確認した。本件において、被告人が自己の行為を法的に許容されると誤信していたとしても、客観的な構成要件に該当する事実の認識がある限り、犯意の成立は妨げられない。行政犯であることを理由にこの原則を修正することも認められないため、被告人の主張は失当であるといえる。
結論
犯意の成立に違法の認識は不要であり、自然犯・行政犯を問わず故意は認められる。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑法38条3項の解釈として、故意の対象に違法の意識が含まれないことを明示した射程の広い判例である。答案上は、違法性の錯誤(禁止の錯誤)が問題となる場面で、原則として故意を阻却しない根拠として引用する。ただし、現代の通説的見解である責任説(違法の意識の可能性が必要とする説)との整合性には注意を要する。
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