一 外国為替及び外国貿易管理法第七三条は、事業主たる法人の代表者でない従業者の違反行為につき、当該法人に右行為者の選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を推定した規定と解すべく、事業主において右に関する注意を尽したことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れないとする法意である。 二 外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第三号、第三〇条第三号並びに右各条項違反行為に対する制裁規定である第七〇条、第七三条は、憲法第三一条、第二九条、第二二条に違反しない。
一 外国為替及び外国貿易管理法第七三条の法意。 二 外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第三号、第三〇条第三号並びに右各規定にかかる第七〇条、第七三条の合憲性。
外国為替及び外国貿易管理法73条,外国為替及び外国貿易管理法27条1項3号,外国為替及び外国貿易管理法30条3号,外国為替及び外国貿易管理法70条7号,外国為替及び外国貿易管理法70条10号,憲法31条,憲法29条,憲法22条
判旨
法律の委任がある場合に政令で犯罪構成要件を定めることは憲法73条6号但書により許容され、また両罰規定において法人等の事業主に過失を推定することは憲法31条の責任主義に反しない。
問題の所在(論点)
1. 法律が構成要件を政令に委任する「空白刑罰法規」の形式をとることは、罪刑法定主義(憲法31条)に反し許されないか。 2. 法人の従業者等が違反行為をした場合に、法人(事業主)の過失を推定して処罰する両罰規定は、責任主義(憲法31条)に反し許されないか。
規範
1. 憲法73条6号但書の規定により、法律の具体的な委任がある場合には、政令に犯罪構成要件及び刑を定める権限を委任することは憲法上許される。経済統制法規は事態の変動に対応する必要があるため、基本的規制を法律で概括的に定め、具体的規制を政令に委任することは必要かつ適当である。 2. 両罰規定は、従業者等の違反行為に対し、事業主がその選任・監督等の違反行為防止に必要な注意を尽くさなかった過失を推定したものである。事業主が注意を尽くしたことを証明しない限り刑責を免れないと解しても、憲法31条の責任主義に反しない。この法理は事業主が法人であり、行為者がその代表者でない従業者である場合にも適用される。
事件番号: 昭和38(あ)2629 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律が基本的な規制を概括的に規定し、具体的な犯罪構成要件の細目を政令に委任することは、特に経済統制法規のような専門的・流動的な分野においては憲法73条6号但書、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、外国為替及び外国貿易管理法(当時)27条1項3号に違反して、許可を受けずに非居住者のた…
重要事実
被告人各社は、外国為替及び外国貿易管理法(外為法)の規定に基づき、支払や債権に関する制限・禁止に違反したとして起訴された。弁護人は、①外為法が犯罪構成要件を政令に委任している点は空白刑罰法規として罪刑法定主義(憲法31条)に反すること、②経済情勢の変化により規制の必要性が失われているため処罰は職業の自由(22条)や財産権(29条)を侵害すること、③両罰規定による法人の処罰は過失を推定するものであり責任主義(31条)に反すること等を主張して上告した。
あてはめ
1. 経済統制法規は、複雑多岐かつ絶えず変動する経済情勢に対処する必要がある。外為法が「支払の制限」等の基本的な規制を概括的に規定し、具体的な内容は政令に委任する手法は、憲法73条6号但書の委任の範囲内であり、合理的な規制として公共の福祉に適合する。 2. 両罰規定の趣旨は、事業主の選任・監督上の過失を推定する点にある。法人であっても、従業者に対する監督責任を負う以上、無過失の証明がなされない限り責任を問うことは、刑事責任の原則に反するものではない。
結論
外為法の委任規定および両罰規定はいずれも憲法31条、22条、29条、73条に違反しない。したがって、被告人らの上告を棄却する。
実務上の射程
白地刑罰法規の合憲性と、両罰規定における過失推定の法理を確立した重要判例である。答案上、行政罰や経済犯罪において授権の具体性・必要性を論じる際や、法人の刑事責任における「過失の推定」の合憲性を論じる際の確固たる根拠となる。法人処罰の文脈では、無過失の立証責任を被告人側に転換している点に注意が必要である。
事件番号: 昭和37(あ)1868 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律の委任に基づき政令で罰則(犯罪構成要件および刑)を設けることは憲法73条6号但書により許容される。また、不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項)に該当するかは、身柄拘束の経緯、事案の複雑性、自白の時期等を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は外国為替及び外国貿易管理法違反の罪に…
事件番号: 昭和39(あ)2728 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
非居住者に対して、いわゆる「預り円」を支払うことは、外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第二号前段の規制の対象となる。
事件番号: 昭和37(あ)1250 / 裁判年月日: 昭和40年9月21日 / 結論: 棄却
所論は、本件適用法令たる外国為替及び外国貿易管理法(以下、単に法という。)第二七条第一項第三号前後の憲法第一三条第二九条第一項違反を主張する。しかし、右規定が国民の経済活動、ひいて財産権の行使に対しある程度の制限を加えているものであることは疑いがないけれども、右制限は、法第一条の掲げる諸目的に照らし、これを阻害する事態…
事件番号: 昭和39(あ)1295 / 裁判年月日: 昭和40年11月26日 / 結論: 棄却
外国為替及び外国貿易管理法二七条第一項第三号違反の罪と同法第四八条第一項に基づく命令に違反する罪とは、牽連犯ではない。