非居住者に対して、いわゆる「預り円」を支払うことは、外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第二号前段の規制の対象となる。
外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第二号前段と非居住者に対するいわゆる「預り円」の支払。
外国為替及び外国貿易管理法27条1項2号前段,外国為替及び外国貿易管理法30条,外国為替及び外国貿易管理法70条7号,外国為替管理令13条
判旨
非居住者に対する「預り円」の支払は、債務負担行為自体が規制対象外であっても外国為替及び外国貿易管理法27条の支払制限を受ける。また、通告処分の履行は「裁判により処罰されたこと」に当たらず、これに基づく公訴提起は憲法39条の一事不再理の原則に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 外国為替及び外国貿易管理法30条で禁止されない債務の弁済としてなされる支払が、同法27条の支払制限の対象となるか。 2. 関税法上の通告処分を履行した後に、同一または関連する事実について刑事訴追を行うことが憲法39条の一事不再理の原則に違反するか。
規範
1. 外国為替及び外国貿易管理法(当時)における債務負担行為の発生が規制対象外であっても、その債務の弁済としての「支払」が同法27条1項の制限を受ける場合、当該支払行為には規制が及ぶ。 2. 憲法39条後段の二重処罰禁止は、確定した裁判により処罰された場合に適用される。関税法上の通告処分の履行は裁判による処罰には当たらず、また科刑上の一罪の一部に訴訟条件の欠缺があっても他の部分の公訴提起は妨げられない。
重要事実
被告会社は、非居住者に対する債務(いわゆる預り円)の支払を行った。この行為が、外国為替及び外国貿易管理法30条で規制されない債務負担行為に基づくものであるとして、同法27条の支払制限違反(同法違反罪)に問われないかが争点となった。また、被告会社は同一の事実に係る関税法違反について通告処分を受け、これを履行していたため、本件の公訴提起が二重処罰(憲法39条違反)に当たるとして争った。
事件番号: 昭和37(あ)624 / 裁判年月日: 昭和40年1月20日 / 結論: 棄却
外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第三号は憲法第二九条に違反しない。
あてはめ
1. 法30条等において「預り円」という債務を負担する行為自体が規制対象でないとしても、その債務を非居住者に対して実際に支払う行為は、法27条1項2号前段の規定による制限・禁止の対象に含まれると解するのが正当である。 2. 憲法39条は裁判による処罰の重複を禁じるものであるが、通告処分の履行は行政上の手続に留まり「裁判による処罰」ではない。さらに、関税法違反の罪と本件の法27条違反の罪は別罪であり、通告処分履行により一罪の一部の訴訟条件が欠けても、別罪たる本件の公訴提起を妨げるものではない。
結論
被告会社の行為は法27条の支払制限に抵触し、また通告処分の履行は憲法39条の二重処罰禁止に抵触しないため、上告は棄却される。
実務上の射程
行政上の通告処分と刑事罰の関係、および法規制の異なる条文間(債務負担と支払)の適用関係を示す。特に、通告処分が憲法39条の「裁判」に当たらないという判断は、行政罰と刑事罰の併科を検討する際の基本的枠組みとして利用できる。
事件番号: 昭和37(あ)1250 / 裁判年月日: 昭和40年9月21日 / 結論: 棄却
所論は、本件適用法令たる外国為替及び外国貿易管理法(以下、単に法という。)第二七条第一項第三号前後の憲法第一三条第二九条第一項違反を主張する。しかし、右規定が国民の経済活動、ひいて財産権の行使に対しある程度の制限を加えているものであることは疑いがないけれども、右制限は、法第一条の掲げる諸目的に照らし、これを阻害する事態…
事件番号: 昭和38(あ)1801 / 裁判年月日: 昭和40年3月26日 / 結論: 棄却
一 外国為替及び外国貿易管理法第七三条は、事業主たる法人の代表者でない従業者の違反行為につき、当該法人に右行為者の選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を推定した規定と解すべく、事業主において右に関する注意を尽したことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れないとする法意である…
事件番号: 昭和38(あ)2629 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律が基本的な規制を概括的に規定し、具体的な犯罪構成要件の細目を政令に委任することは、特に経済統制法規のような専門的・流動的な分野においては憲法73条6号但書、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、外国為替及び外国貿易管理法(当時)27条1項3号に違反して、許可を受けずに非居住者のた…
事件番号: 昭和37(あ)906 / 裁判年月日: 昭和38年12月4日 / 結論: 棄却
外国為替及び外国貿易管理法第二七条第二項第一号は、非居住者が同号記載の費用を支弁するため本邦通貨で支払う場合を規定したものと解すべきである(昭和三六年(あ)第二五四三号同三七年一二月一八日第三小法廷決定、刑集一六巻一二号一七〇六頁参照)。