所論は、本件適用法令たる外国為替及び外国貿易管理法(以下、単に法という。)第二七条第一項第三号前後の憲法第一三条第二九条第一項違反を主張する。しかし、右規定が国民の経済活動、ひいて財産権の行使に対しある程度の制限を加えているものであることは疑いがないけれども、右制限は、法第一条の掲げる諸目的に照らし、これを阻害する事態の発生を防止するため必要であり、従つて公共の福祉に適合する合理的なものと認むべく、右規定は憲法第二九条に違背するものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(あ)第六二四号、同四〇年一月二〇日言渡)の趣旨とするところである。
外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第三号の合憲性。
外国為替及び外国貿易管理法27条1項3号,外国為替及び外国貿易管理法70条7号,憲法13条,憲法29条1項
判旨
両罰規定により法人が処罰されるためには、従業者がその業務に関し違反行為を行えば足り、法人の内部決裁手続の経緯や代表者による法律上の有効な行為の有無は問わない。また、外国為替及び外国貿易管理法による制限は、公共の福祉に適合する合理的な範囲内であり、憲法29条等に違反しない。
問題の所在(論点)
両罰規定に基づき法人を処罰する場合において、法人の内部決裁手続の不備や、私法上の代表権に基づく行為の欠如が、法人に対する刑罰の成立を妨げるか。
規範
両罰規定(外国為替及び外国貿易管理法73条)の適用において、法人の従業者がその業務に関して所定の違反行為をした以上、当該法人を処罰することができる。法人の内部的な決裁手続の履践や、私法上の法人行為として有効に成立するための代表者による行為の存否は、刑事責任の成否を左右しない。
重要事実
被告人各社は、外国為替及び外国貿易管理法(当時)27条1項3号が禁ずる「預かり円の支払」を行ったとして起訴された。被告人D商事株式会社側は、当該行為について法人内部の決裁手続に遺漏があったことや、代表者による法律上有効な行為を欠いていたことを理由に、法人に対する処罰(両罰規定の適用)は認められないと主張し、あわせて同法の制限は憲法13条・29条に違反すると主張した。
事件番号: 昭和39(あ)2728 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
非居住者に対して、いわゆる「預り円」を支払うことは、外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第二号前段の規制の対象となる。
あてはめ
本件において、被告人各社の従業者はその業務に関して外国為替等の制限に抵触する違反行為を行っている。両罰規定は、従業者の業務上の行為を前提に法人の責任を問うものである。したがって、仮に法人内部の事務処理上の不手際や決裁手続の不備があったとしても、また、民事上法人の行為として有効に帰属するための代表者の関与を欠いていたとしても、業務に関連して違反行為が行われたという事実がある以上、法人の刑事責任を認めることができる。また、同法による財産権等の制限は公共の福祉に適合する合理的なものであるため、違憲の主張も当たらない。
結論
法人内部の決裁手続の遺漏や代表者の法律行為の欠如があったとしても、従業者が業務に関し違反行為をした以上、法人の処罰を妨げない。本件各上告を棄却する。
実務上の射程
両罰規定における「法人の行為」の捉え方について、民事上の代表構成や内部的な権限行使の適法性に依拠せず、実態としての業務関連性があれば足りることを示した。行政刑法上の両罰規定の適用範囲を広く認める実務上の指針となる。
事件番号: 昭和38(あ)1801 / 裁判年月日: 昭和40年3月26日 / 結論: 棄却
一 外国為替及び外国貿易管理法第七三条は、事業主たる法人の代表者でない従業者の違反行為につき、当該法人に右行為者の選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を推定した規定と解すべく、事業主において右に関する注意を尽したことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れないとする法意である…
事件番号: 昭和42(あ)969 / 裁判年月日: 昭和43年12月17日 / 結論: 棄却
外国為替及び外国貿易管理法第七三条のいわゆる両罰規定における事業主としての法人または人に対する事件は、簡易裁判所の専属管轄に属するものと解すべきである。
事件番号: 昭和38(あ)2629 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律が基本的な規制を概括的に規定し、具体的な犯罪構成要件の細目を政令に委任することは、特に経済統制法規のような専門的・流動的な分野においては憲法73条6号但書、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、外国為替及び外国貿易管理法(当時)27条1項3号に違反して、許可を受けずに非居住者のた…
事件番号: 昭和39(あ)1295 / 裁判年月日: 昭和40年11月26日 / 結論: 棄却
外国為替及び外国貿易管理法二七条第一項第三号違反の罪と同法第四八条第一項に基づく命令に違反する罪とは、牽連犯ではない。