判旨
致死量の薬物を服用させた場合、その後に下剤を飲むよう指示していたとしても、薬物が吸収され効果を発するに十分な時間が経過していれば、実行行為と死の結果との間の因果関係は否定されない。
問題の所在(論点)
致死量の薬物を服用させた後、下剤の服用を指示するという「結果発生を阻止し得る事情」が介在した場合において、実行行為と死の結果との間の因果関係が認められるか。
規範
実行行為と結果との間の因果関係は、行為に内在する危険が現実化したといえるかによって判断されるべきであり、行為後に介在した事情が結果発生に実質的な影響を与えない場合には、因果関係は遮断されない。
重要事実
被告人は、被害者に対し致死量に達する極量の数倍の薬物(ネマトール15球)を渡して服用させた。その際、被告人は被害者に対し、服用後2時間後に下剤を飲むよう指示していた。
あてはめ
本件で用いられた薬物は服用後数分から十数分で薬効を現すものであり、被告人が指示した「2時間後」には薬分が十分に吸収される。そのため、指示通りに下剤を飲んだとしても致死的な薬効を阻止する効果はなく、被告人による薬物の供与という実行行為が有する死の危険がそのまま現実化したといえる。したがって、下剤服用の指示という事後的事情は因果関係を否定するに足りる要素とはならない。
結論
被告人の行為と被害者の死との間には因果関係が認められる。
実務上の射程
本判決は、行為者が結果回避に向けた不十分な措置を講じていたとしても、実行行為の危険性が既に高度に顕在化している場合には因果関係が維持されることを示した。答案上は、介在事情の異常性や寄与度を検討する際、その事情が結果発生を防止する客観的実効性を欠くことを指摘する論理として活用できる。
事件番号: 昭和61(あ)960 / 裁判年月日: 昭和63年5月11日 / 結論: 棄却
医師の資格のない柔道整復師が風邪の症状を訴える患者に対して誤つた治療法を繰り返し指示し、これに忠実に従つた患者が病状を悪化させて死亡するに至つた場合には、患者側に医師の診察治療を受けることなく右指示に従つた落度があつたとしても、右指示と患者の死亡との間には因果関係がある。
事件番号: 昭和27(あ)3776 / 裁判年月日: 昭和28年12月22日 / 結論: 棄却
一 看護婦が主治医の処方箋によつて、患者に静脈注射をするに際し、注射液の容器に貼付してある標示紙を確認せず、薬品を間違えて注射した過失により、これを死に致したときは、業務上過失致死罪が成立する。 二 被告人は厚生技官であるけれども薬剤師としての技官である。薬剤師が製剤した場合、薬事法所定の標示を為すべき義務があること勿…