海中における夜間潜水の講習指導中、指導者が不用意に受講生らのそばから離れて同人らを見失い、受講生が圧縮空気タンク内の空気を使い果たしてでき死するに至った事故について、右受講生は潜水経験に乏しく技術が未熟であり、指導補助者もその経験が極めて浅かったことなどの本件の事実関係(判文参照)の下においては、指導補助者及び受講生の不適切な行動が介在したとしても、指導者の右行為と受講生と死亡との間には因果関係がある。
夜間潜水の講習指導中受講生ができ死した事故につき指導補助者及び受講生の不適切な行動が介在した場合でも指導者の行為と受講生の死亡との間に因果関係があるとされた事例
刑法第1編第7章,刑法211条(平成3年法律31号による改正前のもの)
判旨
潜水指導者が受講生らを見失った過失行為は、未熟な受講生が海中で空気を使い果たし溺死する危険性を有する。その後、指導補助者や被害者に不適切な行動があったとしても、それが指導者の過失行為から誘発されたものであるならば、被告人の行為と結果との間の因果関係は否定されない。
問題の所在(論点)
被告人が受講生を見失ったという過失行為(実行行為)の後に、指導補助者による不適切な指示や被害者自身の行動が介在して結果が発生した場合、被告人の過失と被害者の死亡との間に因果関係が認められるか。
規範
刑法上の因果関係は、実行行為が有する結果発生の現実的危険性が、その後の介在事情を通じて結果へと現実化したといえる場合に認められる。第三者や被害者の行為が介在した場合であっても、それが実行行為によって誘発されたものであり、実行行為の持つ危険性の範囲内にあるといえるときは、因果関係は遮断されない。
重要事実
潜水指導者である被告人は、夜間潜水講習中、視界不良かつ風波のある状況下で、受講生らの動向に注意せず不用意に移動し、被害者らを見失った。被害者は未熟な初心者で空気消費量が多く、指導補助者も経験が浅かった。被告人を見失った後、指導補助者は不適切な水中移動を指示し、これに従った被害者は空気を使い果たしてパニックに陥り、溺死するに至った。
あてはめ
被告人の見失い行為は、適切な誘導がなければ事態に適応できない未熟な受講生を、溺死の危険に晒す性質を有する。被告人を見失った後の指導補助者や被害者の不適切な行動は、被告人の不用意な移動によって「誘発されたもの」と評価できる。したがって、被害者の死亡という結果は、被告人が作り出した危険が指導補助者らの行動を通じて現実化したものといえ、被告人の行為と結果との間に因果関係が認められる。
結論
被告人の過失行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められ、業務上過失致死罪が成立する。
実務上の射程
介在事情が実行行為から「誘発」されたものである場合に因果関係を肯定する判断枠組みを示しており、米兵員急死事件(最判昭42.10.24)等の危険の現実化論の流れを汲む。答案では、介在事情の異常性や寄与度だけでなく、実行行為との誘発関係(関連性)を重視する論法として活用すべきである。
事件番号: 昭和31(あ)1187 / 裁判年月日: 昭和33年9月8日 / 結論: 棄却
乗合自動車の運転者が、中学校の正門前附近道路を進行する場合には、前方ならびにその左右を警戒して校門出入者の有無に注意し、その出入者と衝突のおそれがあるときは何時でも停車することができる程度に速度を減少する等事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。