医師の資格のない柔道整復師が風邪の症状を訴える患者に対して誤つた治療法を繰り返し指示し、これに忠実に従つた患者が病状を悪化させて死亡するに至つた場合には、患者側に医師の診察治療を受けることなく右指示に従つた落度があつたとしても、右指示と患者の死亡との間には因果関係がある。
被害者側の落度が介在した場合につき因果関係が認められた事例
刑法第1編第7章,刑法211条
判旨
医師免許のない柔道整復師が、風邪を患う被害者に対し、医学的根拠のない不適切な指示を繰り返して病状を悪化させ死亡させた場合、被害者側の落ち度を問わず、当該行為と死亡との間には刑法上の因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
医師ではない者が行った不適切な指示(実行行為)と、それに従った被害者の病状悪化・死亡(結果)との間に、被害者側の不適切な対応という介在事情を考慮してもなお、公判上の因果関係が認められるか。
規範
刑法上の因果関係は、当該実行行為が結果発生の危険性を有しており、その危険が現実化したといえる場合に認められる。被害者の不適切な対応などの介在事情があったとしても、被告人の行為自体が結果を引き起こしかねない危険性を有するものであれば、因果関係は否定されない。
重要事実
柔道整復師である被告人は、風邪を訴える被害者に対し、熱を上げること、水分・食事を控えること、閉め切った部屋で発汗させること等の医学的に誤った指示を行い、再三往診してこの指示を継続した。被害者はこれに忠実に従ったため、体温が42度に達し、脱水症状から気管支肺炎を併発して死亡した。被害者は医師の診察を受けず、被告人のみに依存していた。
あてはめ
被告人が行った「高熱を維持し水分を控える」等の指示は、それ自体が病状を著しく悪化させ、死亡の結果を引き起こしかねない高度の危険性を有する行為である。被害者が医師の診察を受けず被告人の指示を鵜呑みにしたという落ち度は認められるが、それは被告人の継続的な指示によって誘発された側面もあり、被告人の行為が有する危険性を解消させるものではない。したがって、被告人の不適切な指示という危険な行為が、被害者の病状悪化を通じて死亡という結果に直接結びついたと評価できる。
結論
被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められ、業務上過失致死罪が成立する。
実務上の射程
被害者の不適切な行動が介在した場合でも、実行行為自体に結果発生の強い危険性がある場合には因果関係が維持されることを示す事例。過失犯の因果関係において、被害者の承諾や依存が被告人の責任を免除しない点を論証する際に有用である。
事件番号: 昭和28(あ)1744 / 裁判年月日: 昭和29年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】致死量の薬物を服用させた場合、その後に下剤を飲むよう指示していたとしても、薬物が吸収され効果を発するに十分な時間が経過していれば、実行行為と死の結果との間の因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:被告人は、被害者に対し致死量に達する極量の数倍の薬物(ネマトール15球)を渡して服用させた。その際…
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …